記憶に基づいて描いた、てきとーな地図です。台湾でも1/2.5万地形図や1/5万の地質図幅が出版されています。 |
台湾最南端の
活メランジュ! ケンティン
update 2003.6/15
ケンティンって?
きれいなビーチですよ。 |
これは列車の風景ですが、まるきり日本と一緒ですね。車内販売がある点まで。 |
宿には必ずクーラーが付いていて、フィールド帰りの台湾ビールがたまりません。 |
漢字って便利ですよね。よくわかるなあ。 |
ミジンコの形をした台湾の最南端には懇丁(ケンティン)というリゾート地があり、そこには第四紀にできた活メランジュがあります。
アクセスと宿
もよりの街は懇丁か恒春(ヘンチュン)なんだけど、どっちも鉄道も飛行場ないので、高雄(カオシュン)からバスかレンタカーで行きます。ちなみに高雄国際空港には日本からの直行便が何便が出てます。で、高雄からの足ですが、台湾の運転事情は想像以上ですので、バスをお勧めします(それでも十分に恐いが、、、)。懇丁は観光地なのでバスも頻繁に運行されてるし、多くの人が行き来するので迷うことなくたどり着けることでしょう。「懇丁」と漢字で書けさえすれば大丈夫! ちなみにバスは、何種類かあって、巨大バスにえらく豪華なソファーシートと水のペットボトルがついてきて、映画ビデオを見ながら揺られるかもしれませんし、小さなバスでジェットコースターのようなスリルを味わえるかもしれません。ま、いずれにせよ懇丁まで2〜3時間ってところでしょう(無事に着けば)。
で、宿ですが、懇丁はビーチがきれいな観光地なので宿泊先に困ることはないでしょう。いくらでもあります。でも台湾ではやや高めの相場です。がんばって値切りましょう。そのほか大学等の研究者のために国家公園の施設でザコ寝することも可能ですが、地元大学の方の紹介が必要ですし、大勢では泊れませんので、巡検では普通のホテルが妥当なとこでしょう。
周囲の地質
簡単に言うと、台湾島南端部の大半には牡丹(ムータン)層が分布しており、そこに南北に恒春断層が走っています。恒春断層の東沿いには懇丁メランジュが分布しています。そして恒春断層を境に東側は山がち、西側は平野になっており、街はこの断層沿い発展しています。で、この断層に沿ってケンティンメランジュが分布しています。
で、このメランジュは〜1.0Maのナノ化石が含まれ、そんで一部が0.5Maの馬鞍山石灰岩で覆われています。ってことは、このメランジュができたのは1.0〜0.5Maってわけですね(現地を案内してくださった台湾大学のHuan教授が書かれた巡検ガイドより)。
巡検準備
すっかり公園化しているのですが、ゴミが散乱しているのはイケマセンね。写真撮るのには。 |
ボコボコと水たまりから天然ガスが! 水泡がわかりますか |
さて、懇丁の街から露頭までは、歩ける距離ではないので、レンタカーか、タクシーか、レンタバイクか、レンタサイクルを使いましょう。特にレンタバイクは街にあふれているので、値切れます。台湾の中でも懇丁は、もはや北回帰線よりも南でめちゃ暑いです。日焼け止めと帽子とミネラルウォーターなしでは死んでしまいます。虫さされもいります。水着も必要です。リゾート地ですから。弁当は、その辺にセブンイレブンがいくらでもあるし、サンドイッチ屋もいくらでもあるし、マクドナルドもあるので、どうとでもなります。
見どころ1:出火
ヤギや牛が現れます。でも、軍がやってきて実弾演習を始めたら帰りましょう。 |
露頭を引き剥がさないと、中が見えないので泥まみれになってがんばる院生。彼はこの後一人で帰国せずに居残って研究した。軍に囲まれるなどの苦労も、、、、 |
出火という地名の通り、メタンガスが湧き出ていて、地面から炎がボーボーと出ています。恒春の街はずれにあり、有名な観光地なので誰に聞いても親切に教えてもらえるでしょう。恒春の街は昔は城壁で囲まれていたようですが、城壁で言えば東門をくぐった道沿いの左手です。駐車場のあるちゃんとした公園になっているのですぐわかります。観光バスもよく来てます。絶好の写真ポイントなんですが、デモンストレーション用のバーベキューやポップコーンの残骸がちらかっていて、ややがっかり。でもその周辺の水たまりにも泡ぶくが見られ、本当にガスが湧き出ているんだああって感じです。
見どころ2:懇丁メランジュ
やれやれ雨が降り出した。彼が着ているのは白衣でなく白いレインコート。 |
白くチラチラ見えるのがディッカイト脈。まるで新土居層のローモンタイト並みに多量に産します。 |
さて、さっきの東門から出てすぐ左に曲ってもいいんですが、東側の山沿いに懇丁メランジュが分布しています。地形的にも山あいの部分が牡丹層だし、裾野のなだらかな部分が懇丁メランジュになります。ですから目の前の丘がだいたいメランジュってわけですね。ほら、あの墓地があるあたりも。で、そろそろお気付きでしょうか、こんだけ若いメランジュだとまだ十分に固結してないので、剪断された地層はモロモロで、雨のたびにドロドロと溶けてしまう状態なのです。と、いうわけでどこにでも露頭があるわけじゃーありません。いい露頭は限られていて、ふもとの道から見てガサッとえぐられた場所を目指していきます。いい露頭は出火のそばでは、出火公園から、どんどん川をさかのぼって進んでもいいですが、やや距離があります。簡単なのは丘の上からアクセスするルートです。ただしこの丘は軍の射撃練習場ですので、訓練中には入れません。ふもとからでも丘の上にいくつかコンクリートの見張り塔やトーチカが見えます。見張り塔の近くにバイクを止めて、戦車を目指して歩きましょう。牛やヤギに会うかもしれません。弾痕のあるトーチカの横をぬけて(いいのか?こんなとこ歩いて!?)、出火公園からのルートと合流するには、こっちの方だろうと思いながら歩くと巨大なガケの上に出れることでしょう。
見ての通り、露頭は未固結の泥岩(っていうかドロ)からできてますので、雨のたびに表面は溶け出して、乾いて、田んぼのように乾裂で覆われてます。正直言えば、最初に見た時には、かなりやる気がそがれました。ですが少しハンマーで表面をひっぺがしてみると中から、新鮮な露頭が顔を出します。「お。こ、これは!メランジュだっ」ってな感じです。剪断された泥岩やレンズ状の砂岩ブロックを発見できることでしょう。でも四万十帯のメランジュと全く違うのはディッカイトが大量に入っているってことでしょう。ダークイエローの泥岩基質中の剪断面に真っ白いディッカイトの脈がいくらでも入っているのです。これはすごい、、、
でかい露頭ですねえって、スケールは左端の院生の彼。 |
見どころ3:礫岩
四万十のメランジュにはよく玄武岩といった塩基性岩のブロックが入っていますが、懇丁メランジュでは尖山の礫岩中の礫でしかお目にかかりません。尖山は、懇丁から恒春に行く途中の国道沿いにあります。原発を通り過ぎて、街への道をとばしているときの右手にある尖った山がそれです。適当な場所にバイクを止めて山のふもとに近付くと礫岩があります。こんな塩基性岩はどっから来たんでしょーねえ?
あと、牡丹層にも礫岩層があります。恒春の街を通り過ぎてちょっと北にいったところに恒春温泉があります。そのちょっと先に古戦場という観光スポットがあります。そこの入り口の露頭で観察できます。こっちは砂岩や泥岩の礫で、塩基性岩はありません。
見どころ4:恒春温泉
恒春温泉の公衆浴場です。 |
ケンティンビーチの正面には原発が2基。恒春断層もすぐそばを通っているけど大丈夫か? |
さて、巡検の汗をさっきの温泉で流しましょう。ここには公衆浴場があって無料で入れます。コンクリートの建物の横には温泉がドバドバ流れ出ていて硫黄の臭いをさせています。火山もないのに。台湾の銭湯は、普通は水着着用だ、と観光ガイドには書いてありますが、日式(日本風ってこと)の銭湯は水着をなしでオッケーです。ちなみにこの公衆温泉は、日式と明記されていませんでしたが、地元の方は水着なしでしたので、いいんでしょう。それで。
さて、お湯は熱めですが、透明やや硫黄臭のさっぱりしたもので、ゆっくりと地熱流体に浸りながら、懇丁メランジュのセッティングについて考えてみましょう。
なぜ懇丁メランジュ巡検なのか!?
で、なぜ台湾最南端の懇丁メランジュをわざわざ見に行かねばならないのでしょうか? ズバリ理由は2つあります。
まず、なんたって若い。若すぎるからです。もうそれは南海トラフの現世付加体とおないなんですから。ただ若さ故に脆いところはありますが。しかし「しんかい6500」や「ODP」で貴重なサンプルを分け合うのに比べれば、こっちはスクーターで出かけてサンプル取り放題です。
もう一つは、付加体中の流体移動の痕跡有りまくりで、今でもこんこん湧きまくりだからです。南海トラフの剪断帯をどれくらいの流体が流れているのか、調べるのは容易いことではありません。懇丁メランジュには、熱水沈殿物のディッカイトがいくらでもあるし、方解石脈もけっこうあります。メタンガスは今でも湧いていてボーボー火は燃えてるし、温泉も湧いています。つまり懇丁メランジュは、活動中の流体通路が陸上に顔出している場所と言えるのです。
ほら、おもしろいでしょ。
アフター巡検には
やっぱ懇丁はリゾート地なので、ビーチでビールでしょう。巡検の後の台湾ビールはサイコー!!です。安い缶ビールもまたいいんですが、たまには緑のビンのドラフトもまたいいんですよ。ええ。
特に夏に巡検する場合は、日中は殺人的に暑いので、できるだけ早朝に出発して、昼飯を食べたらもうおしまい、みたいなスケジュールにしましょう。午後はビーチの木陰で体を休ませて下さい。ちなみに私は日射病1回と夕立ちの中スクーターで飛ばして冷え過ぎによる腹痛を1回経験しました。やっぱ午後はさっさと切り上げるべきなのでしょう。では。