おのれ、さらし首じゃぁ
紀伊四万十帯の混在岩層

update 2006.11/29

 

  混在岩と言えばメランジュ。地層は分断され、連続性が失われ、ひどく変形した地質体。なのですが、多くのメランジュにはシステマティックな変形組織や定向配列した条線など、一定のパターンがみられます。その一方、マジでカオティックでグッチャグチャのメランジュもあるのです。和歌山県南端の通称「さらし首層」もそんな混在岩層のひとつです。

 

 露頭は国道沿いの2ヶ所です。目印はJR田子駅です。図のPの場所になんとなく駐車できます。

 アクセス

これは田子駅前の露頭です。矢印のところに階段があります。その先になんとなく駐車できる場所がありました。

  和歌山県南端、すなわち本州最南端の潮岬のそばです。国道42号線だと本州最南端の潮岬から西へ約15km、JR紀伊本線の田子駅の目の前です。海岸は岩礁が広く発達しています。このあたりは海岸段丘もきれいに発達しており、地震による隆起か?! と思います。でもここはちょうど東南海地震と南海地震のセグメントのちょうど狭間にあたるので、どっちの影響か(もしくはどっちも?)知りません。

  和歌山方面からだと、白浜温泉から車で約1時間くらいです。良い露頭は2ヶ所あって、一つはJR田子駅の前で、もう一つは富山トンネルの先です。JR田子駅は、ちょうど小さな岬の上にあり、駅前の国道はちょっとした峠となってます。この岬の下の岩礁地帯が露頭です。岬をのふもとには防波堤に階段がついていて海辺へのアクセス楽勝です。国道の坂を降りきったところの堤防沿いに駐車スペースがあります。

  もう一つの良い露頭は、田子駅前から約1km南下して、国道の富山トンネルの出口付近です。酒屋があって、その正面の防波堤脇に駐車できます。ここもすんなり海岸に出れます。なんて楽なアクセス。

 
 露頭はこんな感じです。広い岩礁地帯にボコボコと砂岩のブロックが顔出してます。潮が満ちると沈むので満潮は避けましょう。
 

 なぜ、さらし首なのか?

  さて、この「さらし首層」は、四万十帯南帯中新統熊野層群に属します。その中でもとりわけ変形が著しいこの2ヶ所が通称「さらし首層」と呼ばれるのです。岩相は黒色頁岩優勢のマトリックスと砂岩ブロックから成り、とりわけ砂岩がボコボコッとあることが特徴です。黒色頁岩のフラットな岩礁地帯に、まるで「さらし首」のように砂岩ブロックが点在します。ま、まさにさらし首だ。なんちゅうインパクトのあるネーミングでしょうか。す、すごい。

  我々が露頭に着いたときはすでに日が暮れ、かつ潮が満ちてきてるという、かなり悪いタイミングでした。観察できる露頭は海岸沿いに限定され、かなり消化不足な感じでした。でも、夕暮れの海の中に「首」がボツボツと点在し、そこに波がかぶっている様子は、まさに「む、無念」という感じでした(もちろん砂岩はそんなこと考えてないでしょう。どちらかと言えばもっと早く来れなかった私が無念!なのですが、、、)。

 ぐちゃぐちゃ

 露頭は夕日を浴びて赤茶けて見えますが、本当は暗灰色です。
 珍しく堆積構造が残った砂岩ブロック。
 砂岩の多くは周囲に泥の注入痕があります。

  露頭は泥質マトリックスに砂岩のブロックがボコボコ入ってます。砂岩ブロックは大小さまざまで、ミリオーダーから大きいのは数mオーダーまであります。取り立ててブーディンやピンチアンドスウェルといった変形構造はなく、地層の側方連続性もありません。つまり方向やサイズやつながりもなくグッチャグチャです。砂岩ブロックには基の堆積構造を残しているものもありますが、塊状のものもあります。周囲に比べて奇異なほど唐突に巨大なブロックも、どーんと存在します(大首??)。 これが元々砂岩層だとしたらたいそうな厚さです。周囲が泥岩優勢なだけに奇異(紀伊)な印象を受けます。

  マトリックスの泥岩は、淘汰が悪く、いろんなサイズの粒子が混ざりまくってます。片理も劈開も発達してません。顕微鏡で見ても亜角礫〜亜円礫状の様々な粒子がランダムに入っています。フツーのメランジュでは(何が普通なのかって? もちろん白亜系四万十帯のメランジュこそ、ザ・メランジュです、←偏見。それに仏語でなくなってる)、露頭スケールでは様々なサイズの砂岩ブロックがありますが、それらはシステマティックに変形ファブリックを持ち、マトリックスの頁岩は砂粒子をほとんど含まず、粘土鉱物がきれいに配列しているってもんです。こんなに淘汰が悪いのは、泥岩脈の中くらいのもんです(フィールドガイドその2その9参照)。そう、これはフツーのテクトニックメランジュじゃないのです。

 

 土石流説vsダイアピル説

  このさらし首層の成因には大きく2つの説があります。成因を考える上でのポイントはぐちゃぐちゃの産状と淘汰の悪いマトリックスです。整然と堆積したであろう砂と泥の地層を変形させ、分断させ、砂と泥の粒子同士まで引き剥がして、混ぜ合うためにはどうするか?ということです。ひとつは海底土石流説であり、もうひとつはダイアピル説です。未固結の砂泥互層が海底斜面の崩壊によって、なだれ下ることによってできる、というのが海底土石流説です。これは陸側斜面ではいくらでも起き得ることです。また、ダイアピルと言うのは、地下深部の間隙水圧が上昇した結果、堆積物を含んだ流体が海底面へ噴き上げてできるものです。これは泥火山とも呼ばれて付加体に珍しくありません。っていうか紀伊半島のすぐ横の熊野灘の海底にもあるのです。活動中の奴が。

  で、どっちなのか?ですが、この露頭はとてもおもしろいので、私はまだ決着させたくありません。アメリカのLewisさんたちは、砂岩のブロックの中には等方的に膨張したものがある。だからダイアピルだ!と言ってます。たしかに砂岩ブロックには、四方八方にはじけ飛びそうな瞬間に凍結させたようなものがゴロゴロしてます。これは高圧の地下からダイアピルによって海底へ運ばれる過程で、減圧によって膨張したんだ、というアイデアです。なるほどおもしろいです。

砂岩が分断されかかった状態が残っているのですが、四方八方に膨らんだように見えます。
 

 タコかサラシ首か

  ところで、Lewisさんたちは、この地質体を田子の地名から「タコダイアピル」と名付けました。彼らはかなり日本ツウなので、タコがタコと同じ発音であることは知っていたはずです。これはウケ狙いに違いありません。ところがこの地質体にはすでに「さらし首層」とすでに名前を付けていました。「タコ」と「さらし首」では、どう考えても「さらし首」の方がインパクトがでかいです。と、いうわけでこれが置き換わることはありませんでした。私もダイアピル説は好きですが、「さらし首層」と呼びたいです。(あ、さらし首は地名じゃないや。しまった! 地質用語その1参照)。

 

露頭の場所ともよりの宿

■ 国交省空中写真:CKK-75-17-C9
■ 国土地理院1/2.5万地形図:田並
(北緯33度29分20秒,東経135度40分39秒)
■ 宿:やっぱ白浜温泉でしょ

参考文献:

甲藤 次郎. ゆらぐ南紀の玉手箱?サラシ首ゲテモノ化石黒潮古陸のことなど? 地質ニュース, , 260, 24-35, 1976.
紀州四万十帯団体研究グループ. 紀伊半島南部海岸地域の層序と構造−紀伊半島四万十累帯の研究(その3)−. 和歌山大学教育学部紀要, 自然科学, 19, 1969.
紀州四万十帯団体研究グループ. 紀伊半島南部海岸地域(里見−見老津間)−紀伊半島四万十累帯の研究(その6)−, 和歌山大学教育学部紀要, 自然科学, 23, 1973.
Lewis, S. J and Byrne, T. Deformation and diagenesis in an ancient mud diapir, southwest Japan. Geology, 24, 303-306, 1996.

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