製品(5)アイソスタシーをつくる
Update 2006.7/31
根深い話
山脈の下ではモホ面は下に凸。マントルよりやや軽い大陸地殻が深ーくまで食い込んでいるので、高い山が支えられているのです。 |
アイソスタシーの模型を作ります。アイソスタシーってのは、力の平衡って訳されて、ここでは地殻の下の圧力の話です。マントルは粘性の高い液体のように振舞っていて、その上に分厚い大陸地殻などが載っていても、マントルの深いところの圧力は一定になるという意味です。ちょうどプールに発泡スチロールの塊が浮いていても、その下の水圧は周囲と変わらないのと同じです。浮力で説明すると、物が水中に入って水を押しのけると、押しのけられた水の重さの分だけ上向きに持ち上げる力が働くからです。これがもしマントルが液体のように振舞わなければ、物が載ってる部分の下は重い(圧力が高い)でしょう。
ところで液体に浮いている物体の浸っている部分と顔を出している部分の比率は、液体と物体の密度差で決まります。水上の発泡スチロールのように極端に密度が低いと、水中に浸っている部分はほんのちょっとだし、氷は密度差が小さいので、海面にちょこっと顔を出すのに、すごい大きさのボディが海面下にあります。いわゆる氷山の一角です。大陸地殻とマントルの場合は、両方とも岩石ですから、極端な密度差はありません。よって大陸もけっこう根が深くなくちゃいけません。ましてや山脈なんてあろうものなら、その下はものすごく根深いのです。つまりモホ面(マントルの境界)は、大陸山脈では下に凸なのです。
グリーンランドとマントル
ところでマントルは、どろどろのマグマではなく、カチンカチンの岩石です。でも、長い時間がかかるとゆっくりと変形して、液体のように振舞うところがポイントです。ですから大陸の荷重が変化しても、急には変化できず、ゆっくりと反応して、最終的にはアイソスタシーに達します。急な荷重の変化といっても、だれかが飛び跳ねたりするものじゃなくて、ここではグリーンランドの氷床などを指しています。氷期の間に分厚くなっていた氷床がこの間氷期のうちに消滅して、グリーンランドではアイソスタシーが崩れているんだそうです。グリーンランドは現在、急速に隆起しているのですが、それは氷床という重しが取れて、アイソスタシーを取り戻そうとしているためだと説明されています。このグリーンランドの研究は、それだけでも「ほほー。おもしろい!」ですが、この隆起速度からマントルの粘性まで逆算されているのです。うーん、そこまでやるか。さすが歴史に名を残す研究は違いますな。
工作
背の高さが違うフロートを水槽に入れたらこんな風に倒れちゃいます。 |
立方体なら倒れないのでしょう。でも高さの違う立方体ってのは、底面積も大違いですな。何を比較してるかわからなくなります。 |
仕組みは簡単です。 |
で、ようやくウンチクは終わって工作です。作るのは高さの違うフロートを浮かべて、「水上にどれだけ顔を出すかは、根深さによる」という点と「荷重を変化させても必ずバランスを取る」という点を見れるようにすることです。すっげー単純なコンセプトです。なーんだ。
でも、工作にはちょっと工夫が必要です。例えば木で高さの違うフロートを作って、水槽に並べてみるとわかります。材木の密度は木によりますが、松みたいに0.5g/cm^3くらいだと、水没する部分と顔出してる部分が半々となります。すると、少しでも細長いフロートにすると倒れてしまいます。かといって倒れないようにサイズの違う立方体にすると、底面積が違うという点に目がいってしまいます。やっぱ背の高さだけが違うフロートが整然と並んでいて欲しいと思うわけです。
と、いうわけで、透明の支柱を立てて、そこにチューブ状のフロートにしました。これなら底面積も同じで、背の高さが違うフロートを倒れることなく、並べることができます。いやあよかったよかった。
具体的には、アクリルの中空棒を買ってきて、穴にネジ切ってボルトが入るようにします。そんでコの字型のアルミアングルにも穴を開けます。アルミアングルを使った理由は、水中に入れたときにちゃんと沈むように重しにするためです。フロートには最初材木の筒を使ったのですが、アクリル支柱との隙間が少なめだったため、木が水を含んで少し膨張すると、支柱と引っかかってしまったので、ゴムスポンジチューブに変更しました。このゴムスポンジはホームセンターに売ってあります(水道管の保温用??)。ゴムスポンジは真っ黒なので、くっきり見やすくてディスプレイとしてよいです。ただ、密度は木より小さく、水面より上の部分が極端に出てきます。「大陸地殻のちょっとした山脈でも、地下には深ーく根っこがあるんですよ!」 と言うためには木の方が都合よいかもしれません。
材料 | 何のパーツ? | どれくらい? | 何円ぐらい? |
アクリル箱 | 水槽 | 30X200X300 mm 1個 | 1800円 |
アクリルパイプ | 支柱 | φ15 mm 1本 | 1500円 |
M10ボルト | 支柱支え | 1.5X1.5X3cm 5本 | 1000円 |
アルミチャネル | 支柱土台 | 10X20mm 1本 | 800円 |
ゴムスポンジチューブ | フロート | φ20 mm 1本 | 1200円 |
合計5300円くらい |
木のパイプで作った場合です。 | こっちはゴムスポンジチューブの場合です。水面わかるかなあ。 |
ところでグリーンランドの隆起速度と大陸地殻/マントルの密度差からマントルの粘性率が求められたように、このおもちゃで液体の粘性率を測定してみたかったのですが、ちょっと無理でした。なにせ水とゴムスポンジでは密度差ありすぎです。指でちょっと押し込んで、回復する時間を測りたいのですが、ぴょーんと飛び出してしまいます。速すぎだ。水の代わりに粘性の高いリンスなぞ入れたら、ぐにょーってゆっくり隆起してくるかもしれませんね(まだ、試してない)。