地震と活断層(20)バネがすべりにスティフネス
update 2005.1/11
無駄買いじゃなかったんだ
停止→バネの伸び→急なすべり→停止 を繰り返すのが固着すべり。一方、ずるずるすべり続けるのが 安定すべりです。 |
さて、前々回まではどーやってソリが速度弱化や強度回復するかって話でしたし、前回はバネの力の蓄積と、ソリのガンバリとのバランスで固着すべる話でした。で、今回はバネの種類を変えてみましょう。ここでいうバネってのは断層で言えば一見、岩石のヤング率になるように思えることでしょう。え?全く考えてもしてなかったって。まあ、そう言わずに考えみましょうよ。バネの強さも固着すべりに欠かせない大事な要素なんですから。
さて、ブロックスライダーのおもちゃの作り方が掲載されましたが、作ってみましたか? 作った人はバネの奥深さに感嘆の声を上げたことと思います。作り方のページにはどんなバネを買うべきかちゃんとした指定はありませんでした。これでは買いようがありません。ジョイフルホンダに行って何種類かのバネを買うしかなかったでしょう。固着すべりしたバネもあったでしょうし、ズルズルと安定すべりを起こしたバネもあったでしょう。
くそっっ無駄なバネを買わされたっっ いいえ。そんなことはありません。そこがおもしろいのです。まずは固着すべりのバネの効果をビデオで見てみましょう。
な、なにが不思議なのかって?
実験ムービー その2 |
実験ムービー2!! 今度はバネを変えたバージョンです。 |
ね、おもしろいでしょう。それまではちゃーんと固着すべりをしていたソリ。じぃぃ、、びゅんっ。じぃぃ、、びゅんっ。っって。でも、それがソリも、オモリも、糸巻きも、同じなのに、バネを変えただけで、ズルズルズル〜と動く 安定すべり に変わってしまいました。バネで変わったんですよ。
これが例えば、つるつるのソリに変えたから安定すべりになりましたっていうなら簡単です。ついでにオモリをうんと小さいものに変えても安定すべりになりました。ってのも簡単です。そうでしょ?
どっちも摩擦を小さくしますからね(硬くてツルツルの表面は貫入硬さが大きいですし、オモリを小さくすると垂直応力が減るので、どちらも真の接触面積が小さくなります。第15回参照)。でもバネを変えたってソリの摩擦は、なーんも変わりませんよ。では、どうして固着すべりから安定すべりになっちゃったのでしょう?
おぬしは強すぎる
では、また例のグラフで説明しましょう。このグラフでは、糸巻きが巻くにつれてバネの力が大きくなって、ついにソリを上回り、そしてソリが動き始めるってストーリーでしたね。で、カギなのがバネのスティフネスっていうか、きっぱり言うと弾性率です(バネの伸びと差応力について思い出してみますと、弾性歪みと差応力は比例してましたね。エキスパンダーも、うーんと伸ばすにはうーんと大きな力が必要でした。第6回参照)。で、この割合はバネによります。弱いバネだとちょっとの力で、びよーんって伸びますが、強ーいバネはそうはいきません。グラフでいうと、ちょっと引っ張るだけで、バネの力がぐぉぉん!と急上昇します。あっという間にソリの力に到達します。つまり糸巻きがちょっと引っ張るだけでソリが動きます。でもソリが動き始めると、強いバネの力は急激に低下します。歪みに対して極端に力が変化するから強いバネなのですから。ソリがすべり始める瞬間、ソリも速度弱化を起こして摩擦を急低下させますが、それをも上回って、いや下回ってバネの力が小さくなるのです。ここがポイントです! 固着すべりの時はソリの摩擦力がバネの力よりも小さくなってバネがソリを引っ張る(つまり加速する)瞬間が訪れたのですが、これではそのスキがないじゃないですか。バネの力はソリより下→バネ伸びる→ソリ加速しようとする→でもバネの力急低下→バネ伸びる、、、と繰り返されます。結果、バネの力とソリの力は釣り合って、ズルズルすべってしまうってわけです。
なるほど。強いバネってのは、伸ばすと急に力が大きくなって、バネを戻すと力が急低下するのか。それもソリの速度弱化量よりも大きく変化するんだなぁ |
システムってなんじゃい
同じ強度の岩石でも、フレームが弱いと 弾性歪みの蓄積→破壊 となります。ちょうど固着すべりのバネの伸び→すべりのようですね。 |
でも、フレームが強固だとフレームが弾性的に歪むことなく岩石が破壊します(注:岩石はちょびっと弾性的に歪みます)。ちょうど安定すべりのようですね。 |
なるほど力学モデルはそれでいいとしても、やっぱバネの強さだからヤング率なんじゃん。スティフネスだなんて横文字使ってみただけなんだ。 はいはい、どーせそーだと思いましたよ。
と、思った事でしょう。え、思ってないって? ま、いいけど。で、スティフネスがヤング率でないという話ですが、それはスティフネスはシステムの強さを問題にしているからです。
え、システム? ええシステム。
では、まず岩石破壊実験を例にしてみましょう。図のような一軸圧縮試験機(封圧をかけない。つまり大気圧。はっきり言うと室内で上下から押すのみ)で岩石を壊すとします。試験機は油圧ジャッキと鉄の枠でできてるとしましょう。でも枠がヤワだと油圧ジャッキと岩石に負けて、試験機全体がゆがむでしょう。ぐにゃ。で、たわみはどんどんたまっていって限界に達すると、ようやく岩石が壊れます。ばきっ。これはいわば固着すべりですね。弱いバネが歪んでいって大きな差応力を蓄えた、みたいなー。
一方、めっちゃ強い枠、ビクともしない枠の場合は、油圧ジャッキが力をかけると、フレームは歪まないので、あっさり岩石が壊れます。そしてなお、力をかけ続けると岩石がずるずるとすべっていきます。いわば安定すべりですね。
これがシステム、系、フレームワーク、の強さによってすべり方が変わるってことですね。実験で使用する岩石強度は一緒でも、試験機のスティフネスによって固着すべりや安定すべりを起こすってことです。つまり天然の岩石を取ってきて破壊試験をする上で大事なのは、どんなすべり方をするか、ではなくて、どれだけ速度弱化するかってことです。すべり方は試験器を含めたシステム全体で決まるけど、速度弱化の程度は各岩石に固有の特性だからです。←ここポイント!
断層で言えば応力をかけるプレートや巨大な震源断層を含む地殻そのものがシステムになります。そこには付加体とかプレートとかいろんな複雑な構造がぜーんぶ含まれるのです。脆い物、しなやかな物、いびつな物、平らな物それに欠陥など全部含めたシステ全体がフレームであり、ブロックスライダーおもちゃのバネをつくっているのです。だからそのほんの一部の岩石を取ってきて、そいつのヤング率をちょいと測っても、そこからシステム全体の弾性的な振る舞いを考えるのは簡単じゃないですね。
固着すべりか? 安定すべりか? という問題はシステム全体が関係しているって話でした。つまり断層の場合、地殻の構造や材料特性の事を示しています。
安定すべりの断層
ところで、地震を起こす断層というのは固着すべりをしてますね。長い停止と急なすべりを繰り返すんですから。でも、世の中には部分的には安定すべりを起こす活断層もあるのです。かの有名なサンアンドレアス断層系の一部がそうです。それはホリスターの街で見ることができます。詳しくは巡検に便利(その5:ホリスターの安全な活断層)を見てください。でも、どうしてサンアンドレアス断層は、ある部分ではサンフランシスコ地震やロサンゼルス地震のような大地震を起こすのに、ある部分では安定すべりを起こすのでしょうねえ。
今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
ショルツ 著/柳谷 俊 訳 「地震と断層の力学」
J.E.ゴードン著 土井恒成 訳 「強さの秘密」