地震と活断層(6):ストレスが原因ですね

update 2003.6/10

2つの応力

さて前回は応力と歪みとはちゃんと区別しましょう、そして歪みには弾性歪みと永久歪みの2種類があるって話でした。で、今日は応力には剪断応力と垂直応力の2種類があるという話です。

  教科書を斜めに押すとスベル。垂直から押してもスベらない。 え、当たり前だって? まあね。

  外力はそのままに机と教科書を回転させて、机の裏側から透視してる図です。こうなると、剪断応力はなくなり、垂直応力だけになります。つまり剪断応力ってのは副次的な物で、おおもとには、基本的な垂直応力が存在するんです。 

  基本的な垂直応力を、主応力と呼びます。空間に対して、これらの応力が適当な向きに存在していて、うまい方向にクラックがあれば、そこに剪断応力が発生するのです。
  水中でクランプで岩石をつぶすとしましょう。この時のクランプの圧縮力がσ1で、水圧がσ3=σ2ということになります。そしてクランプと水圧の差(σ1ーσ3)が差応力です。

  例えばこの机に置いてある本に斜めから力をかけると、ずるずるとすべります。このすべらす力に対するのが剪断応力で、本を机に押しつける力に対するのが垂直応力です。高校物理の力学の最初に出てくる力の分配ですね。で、断層で言えば、この剪断応力が大きければついには動き出して地震に至るわけです。だからこの剪断応力を詳しく知りてぇーっと思ったことでしょう。ですがちょっと待ってください。まず応力場の話から入った方がいいので、垂直応力から考えましょう。

 つまり斜めから押した外力、この場合手ですが、この手が押した力が本に対して斜めだったので、に応力がかかってきたのです。

 

応力場

この教壇と本周辺における空間には、手、本の自重、大気圧などいろんな原因の力が生じてます。こういった空間における力の方向と大きさを対するものを応力場といいます。で、ある方向からある大きさの力がかかることによって、結果として本と机との間に剪断応力が生じているわけですね。この場合は周囲からの大気圧と手の押す力のことで、どっちもまっすぐに押す力なんだけど、手の押す力は本に対して斜めなもんだから剪断応力が生じているわけです。本が停止しているということは(今のところ摩擦抵抗力が踏ん張ってる)、いろんな力は全体としてバランスをとっているわけです。バランスが崩れれば本や机は飛んでいくでしょう。では、どんな風にバランスを取っているのでしょう? もし怪力な学生が現れて本を机ごとくるくると回転させて(大気圧や本を押していた手の力はそのまま)、手の押す力に垂直になるように机を(本も)向けられたら、剪断応力はなくなってしまってしまうでしょう。同様に机や本の中のミクロな世界において、仮想的な立方体をくるくる回したら、剪断応力が無くなる配置が見つかるでしょう。剪断応力は副次的なものにすぎないんだああ。

 つまり応力場は垂直応力だけで表現できちゃうってわけです。この基本的な垂直応力のことを主応力と呼びます(principal stress 主要な、基本的な、応力)。 さっきの本と机で言えば、手の押す力と大気圧が主応力になります。で、主応力には最大、中間、最小の3つがあり、それらは互いに直交する3つの軸で表現されます(3次元の住民の場合)。つまりこの場合は手の押す方向が最大主応力で、結果的に本がすべる方向が最小、そしてこの2つと直角方向に中間主応力があることになります。ちなみにこの3つの主応力は最大、中間最小はそれぞれσ1、σ2、σ3と表記します。ま、σ1と出てきたら最も大きな押す力の方向だな、その結果押される方向がσ3だなってことです(混乱させるようだけど、材料工学の世界では同じσ1,2,3の記号を使っても引っ張りが正で押しが負なんだって)。もちろん必ずσ1>σ2>σ3である必要はありません。私が教壇で本に応力を与えている時に、学生がコンプレッサーで教室の気圧をどんどん上げれば(σ1はうまいこと独立するシステムの場合)、σ1=σ2=σ3 となるかもしれません。このσ1、σ2、σ3は今後も頻繁に使うので覚えておきましょう。

 

差応力と弾性歪み

 ゆるい時に10cm延ばすのと、延びた状態から10cm延ばすのとでは必要な力が全然違います。つまり歪めば歪む程、大きな力、大きな差応力がいるのです。つまり弾性歪みと差応力は比例関係ってわけです。
 

 なんだか定義ばかりで退屈でしょうが、この講議ではこれらをぜーんぶ使って断層の力学を話していくので、あきらめて覚えてください。そう、がまん、がまん。

 さて、次は差応力ですが、これは「応力の差」ってことです。はい。σ1とσ3の差ということです。これが大きくなると物体が壊れるのです。つまり右図のように岩石をクランプで挟んで壊すとしましょう。教室でこっちからギリギリと締め上げてσ1=10MPaで壊れたとしましょう。でも同じ岩石を海底に放り込んだとしたらどうでしょう? 水圧が10MPaかかっても、試料全体に全方位から均等に力(つまりσ1=σ2=σ3)がかかれば破壊は生じません。そう差応力がないからです。この考え方は大事です。周囲からの応力(フツーはσ3のこと)を封圧と呼びますが、これが大気圧だったり、水圧だったり、断層だったら岩圧だったりするだけの話なのです。

 で、この差応力ですが、こいつは弾性歪みと比例するという特徴があります。どういうことかと言えば、筋力トレーニングのエキスパンダーってバネがありますよね。あれを伸ばすのに、最初の5cmと、だいぶ伸ばしてからの5cmでは必要な力がぜーんぜん違いますよね。つまり伸ばせば伸ばすほど強い力、すなわち大きな差応力がいるんですな。岩石もさっきの万力で、ギリギリと締め上げていくと、しばらくは弾性的に歪むんですが、徐々に差応力を大きくしないと締めにくくなってきてます。歪み量と差応力量が比例しているんです。最後には岩石は破壊してしまいますし、エキスパンダーのバネも切れてしまうでしょう(プルートじゃあるまいし、やったことはありません)。

 

なにが正なのか

 横から引っ張られて、ずるっとすべり落ちるタイプですね。相対的に上側の岩盤(だから上盤と呼ばれる)が下に変位するタイプです。
 横から押されて、むにゅって押し上げられたやつです。上盤がより上に変位します。
 斜めから押されて、横にすべるタイプです。ま、断層もいろいろですが、落ち込んだり、跳ね上がったり、すれ違ったりってなわけですな。

 お次は断層の分類です。ま、どの教科書にも載ってるのでそっちを見て下さい。と言いたいですが、せっかく主応力を学んだことだし、そいつを使ってちょこっとやりましょう。

正断層
右図のように引っ張り応力の場における陥没型(地すべり型と呼んでもよさそー)の断層を 正断層といいます(σ1が垂直で、σ2と3が水平)。こいつは上盤が下がるんですな。こいつはσ1が重力ってことになりますね。それにしても、どうしてこいつが「正」で次のタイプの断層が「逆」なんでしょうかねえ?

逆断層
そんでそれとは逆に横からの圧縮力で、重力反して上盤がせり上がる断層を逆断層といいます(σ3が垂直で、σ1とσ2が水平ってこと)。

横ずれ断層
そんで上盤も下盤も上下変位しない奴が横ずれ断層です。こいつは断層を挟んで向こう側が右に動けば右横ずれ、左に動けば左横ずれって定義されます。ちなみにσ2が垂直で、σ1,3が水平ですになります。

要は我々の地面に対して引っ張りだったり、圧縮だったり、すれ違いだったりする応力がかかっていることの現れなんですね。ちなみに正断層は地面に対して高角だし、逆断層は低角、横ずれ断層は高角と相場が決まっています。え、なぜかって? それが知りたかったら第10章を見てくださいな。

 

まとめ

 というわけで、今回はσ1、σ2、σ3にまつわる話でした。覚えましたか?テストに出ますよ。では。


今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
J.E.ゴードン著 土井恒成 訳 「強さの秘密」
松田時彦 著  「活断層」
狩野謙一、村田明広 著 「構造地質学」

四万十帯に便利

地震と活断層

1.でかい地震はどれだけでかい?
2.活断層はなぜ危険なのか?
3.沈み込みサイエンス
4.予知はすでに実現している?
5.ストレスがたまらねー
6.ストレスが原因ですね
7.必殺!グリフィスクラック:破壊力学1
8.クローン?いやクーロン:破壊の力学2
9.モールの美:破壊の美学3
10.スリッププレディクタブルはあり得ない
11.水圧と地震
12.破壊衝動に駆られて
13.壊したから.わかった
14.強ければそれでいいのか
15.摩擦って何よ
16.摩擦の追憶
17.そして地震の発生
18.あなたって.いざという時に...
19.震源になるために:固着すべりの力学
20.バネがすべりにスティフネス
21.質問はありませんか? あのー...
22.原材料表示があればいいのに
23.広大な断層のどこかに
24.脱臼でもしてゆっくりしたら
25.地震の巣 深部で起きていること
26.ダイヤモンドとじんせい −脆性破壊−
27.ハンガーニュークリエーション


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