地震と活断層(18):あなたって、いざという時に
update 2004.9/11
その時の強さ
さて、前回は地震が起きる寸前、つまり「臨界すべり」の時の断層の動き方の話でしたが、今回はその瞬間に断層強度がどう変化するのか。そして強度変化がどういったメカニズムで起きるのかについて考えてみましょう。
速度弱化とすべり軟化
これがすべり軟化(歪み弱化)です。二度と元の強度には回復しません。永遠に弱ったままです。あーあ。 ところがぎっちょん、これが 速度弱化なら話は全く違います。速く動けば弱いし、停まれば強度回復します。両者は似て非なるっていうか別物です。試験に出したくなるほどです。 |
ところで、摩擦強度がすべり速度に応じて変化するということは前々回に話しました。覚えてますか? 覚えてるわけないですね。大丈夫ですよ。
ゆっくりすべり、もしくは停止中だとアスペリティがじわーって食い込むので摩擦強度が上がるし、高速ですべっている時はアスペリティが食い込む間がないので、摩擦力が弱いってやつですね。思い出しましたか? と、いうことはジトーッッッと止まっている奴はべったりくっついていて、かなりの摩擦強度を持つってわけです。つまり地震を起こす寸前の断層というのは、100年とか1000年とか食い込んでいるで、めちゃめちゃ強度が高くなっていることでしょう。
こうして聞くとなるほど、当然至極あたりまえな話に聞こえます。が、ここが大事なのです。何が大事かと言えばジーッとしていると強度が強くなるって点です。これは断層が地震を繰り返し引き起こすための必須条件なのです。そうじゃない例としては、例えばガラスのように一見丈夫なだけど、壊れたら元の強度に戻れないようじゃ震源としての資格がないのです(第14回のすべり軟化の話ですね)。何度でも地震を起こし続けるためには、断層がすべり始めたら急激に弱くなり、それまで溜め込んでいた弾性歪みをぶわぁぁぁっっっと吐き出す。でも断層が停止したらジーッと強度を高くしていって、再び弾性歪みをため続ける能力がいるのです。次の地震を起こすための準備ですね。こういうふうに速くなると弱くなる(=遅くなると強くなる)のを速度弱化と言います。
オレはいざっていう時に強いのさ(一瞬だけど)
では、停止から高速へと移行する瞬間には何が起きているのでしょうか? つまり地震が起きる瞬間の断層の強度の話です。でも岩石で話をするのは難しいので、金属やアメのように強度が時間依存性をもつ材料で考えましょう。簡単に言うと、急に変形させれば強固だし、ゆっくり変形させれば態度を軟化する(ぽきっと折れるアメも、ゆっくりとジワーッと力をかければ小さな力でも結局曲っちゃう)材料です。
停止中は、貫入硬さが低いので凸が食い込みます(アスペリティ増加)。だから摩擦力が高いです。 |
高速すべり中は、貫入硬さが高いので、凸は食い込みません。アスペリティが小さいので摩擦はちっちゃいのです。 |
ただし古いアスペリティを乗り越える間だけは大きな剪断強度と大きなアスペリティが共存します。これが臨界すべり中です。 |
摩擦は表面の凸凹がどれだけ噛み合っているかが重要でした。凸の貫入硬さ(P)が柔らかければ凸は変形して噛み合い、アスペリティは増えるでしょう。でもいくらたくさんの凸が噛み合っても、そいつらの剪断強度(S)が小さければ摩擦は増加しないでしょう。ぐにゃっと噛み合ってもへにゃへにゃとすべってはダメです。ぐにっと噛み合って、ググッと持ちこたえなくちゃ。で、次に完全に高速すべりの状態だと、どうだったでしょう。剪断強度は高いですね。速い変形でアメを曲げる(折る)ためには強い力が必要なのと一緒です。だけど貫入硬さも上がっているので、凸は食い込まずに、結局の所アスペリティは小さいので摩擦は上がりません。
(もちろん速度弱化を起こす物質の場合ですよ! 万物に当てはめちゃいけません)
しかしこの中間では特別な状況が生まれます。そう臨界すべりの瞬間です。
- 停まってると凸が噛み合ってアスペリティは大きい状態でした。このままゆっくり引っ張れば(停止とゆっくりすべりは等価でしたよね:第16回)剪断強度も低いので摩擦は小さいでしょう。
- でも、これを急に引っ張ります。
- 剪断強度も貫入硬さも速度に応じて変化します。剪断強度が上がっても、貫入硬さも上がるので(アスペリティが減るので)互いに相殺されるはずです。
- でも臨界すべり中は、それまでの古いアスペリティを乗り越えなきゃいけません。この瞬間だけは大きなアスペリティに大きな剪断強度が共存します。つまり摩擦力は飛び抜けて高いのです。
タタミとの癒着を強めていたタンスを移動させようと、ググッと押すと、その瞬間は強い力がいるけど、その後はずるずるとすべるって感じですかね。このグラフはまた登場します。要暗記。 |
瞬間の強さ
これをグラフで見てみましょう。停まっていた物体が臨界すべりを経て高速すべりを起こします。
(1) 停まっている間(青線)は、アスペリティが噛んでいくので徐々に強くなってます。
(2) 古いアスペリティを乗り越える瞬間(赤線)だけは、高い強度が生じますが、
(3) 完全に高速すべりに移行してしまうと(緑線)接触表面は新しい状態になるので摩擦強度は小さくなります。するするすべります。そしてこれが停止するとこの逆の状況が生じて、強度はすみやかに回復(上昇)します。
このグラフのように高速すべり時には強度が落ちて、停止すると強度回復するような物質がすなわち速度弱化する物質ですね。この世の万物すべてがこんな振る舞いをするわけではありません。中にはそうじゃない物質もたくさんあります。つまり速度強化する物質もあります。でも、地震を繰り返し繰り返し発生させ続けるためには速度弱化する物質でなきゃいけません。つまり断層は、そんな物質でできているはずです。
このグラフは近いうちにまた登場します。大事なので覚えといて下さい。では。
今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
ショルツ 著/柳谷 俊 訳 「地震と断層の力学」
大中 康誉・松浦 充宏 著 「地震発生の物理学」