地震と活断層(17):そして地震の発生
update 2004.8/7
すべり核の形成
さて、お待ちかね。今回はいよいよ地震が発生しますよ。それまで停止していた断層も弾性歪みが限界に達して、ついに臨界すべりを始めます。最初はゆっくりと。そしてそれも限界に達するとすべりは急激に加速して全体の破壊へと発展します。このきっかけとなる破壊の始まりをニュークリエーションと呼びます。ま、すべり核の形成ってわけですね。断層の場合なら震源核です。こいつがどーやって起きると考えられてっかと言うと、大中さんとかいう人の説明によれば、またもアスペリティで話がつきます。
いやー、アスペリティ、すなわち部分接触というアイデアは摩擦を考える上での鍵ですね。
掃除の時間にさぼる奴は必ずいたものです
みかけの接触面でなくてー、真の接触面であるアスペリティが全体を支えているハズでした。でも、そのアスペリティにもがんばっている奴と怠けてる奴がいるんですって。なるほどそーかもね。 |
これまではアスペリティを横から(断面から)見て考えてきましたが、今回は面的な方向から考えてみましょう。断層も含めて物体の表面は完全な平面ではなく、その上に微妙な凸凹があって、いくつかの凸同士が噛み合って摩擦面全体を支えてましたね(第13,14、15回参照)。で、この数多いアスペリティですが、その全員が均等にがんばっているわけではなくて、いくつかのメジャーなアスペリティが全体の強度を担っていて、その他はたいして役立っていないものだそうです。ああ、そんなものかもしれませんね。いかにもありそうな話だ。
そこに剪断応力がぎゅーっっとかかります。メジャーなアスペリティが大半の強度を受け持ってくれて、マイナーなアスペリティには若干の負担しかかりません。
が、しかし、それにもかかわらずマイナーなアスペリティはメジャーに比べるとあんまりにも弱小なので、がんばれずにすべってしまったりします。そしてそこが引き金となるそうです。まるで「あなたって役に立たないばかりか人の足まで引っ張るのねっっ!」みたいだし、もしくはマフィアの小物チンピラがヘマして警察がそこを突破口にボスを逮捕するようなもんでしょうか??
地震発生寸前。そして
つまり弱い部分から破壊が始まってしまうってわけです。広大な摩擦面のほんの一部がズルズルとすべり始めるわけです。でも、ちょっとぐらいすべってもメジャーなアスペリティがドーンとがんばっていれば、くい止められるかもしれません。そーしたらこれは、全体的な破壊には至らず、何事も起きません。でも、マイナーな部分から始まったすべりが、メジャーなアスペリティの一つを破壊したらどうでしょう? 残りのアスペリティだけでは強度が足りません。もはや全体が支えられません。看板スターが一人でも降板したら一巻の終わりなのです(二巻には続きません)。
それまで静かに進行していたすべりは、一気に進行して、それまで蓄積していた弾性歪みを解放して、どどどどどどどどどどどどどどどどどと加速しながらすべっていくでしょう。つまり地震が起きるってストーリーですね。
と、ゆーわけで、弱いアスペリティからはじまったすべりが、ついに臨界すべりを引き起こすほどに発展すれば、それが震源核ってなわけですね。この弱い部分がゆっくりすべるのを準静的すべり。そして全体が加速的にすべるのを動的すべりと呼びます。
比較的弱い部分からゆっくりすべり始めて(準静的すべり)それがあるレベルと超えると一気に全体に加速的に拡大(動的すべり)するんですって。 |
例のタンスで言えば(第15回参照)、長く放置されていたタンスは、タンスの縁とか角とか特定の部分でタタミと癒着していたことでしょう。それがメジャーなアスペリティです。そんでそれを押すと、それほど強く癒着してこなかった部分が剥がれ始めて、しっかり食いついていた部分の一つをひっぺがします。「めりっ。」 これが臨界すべりです。そしてそれを乗り越えるとタンスは軽くなりすすすすす〜と一気に動くっってなわけです。
じゃあ、直前予知は?
地震予知に関して言えば、第4回に述べたように数100年オーダーの長期予知はある程度見積もられてるわけですが、やっぱ皆さん知りたいのは、短期予知でしょうねえ。で、この臨界すべりが摩擦現象にはつきものだとしたら、地震発生直前のこいつを観測できれば、予知が可能!ということになるはずです。
実際問題として、これが観測できるのか? そして観測できたとしても、最初は小さなすべりからスタートするので、それがどこまで成長するのか推測できるのか?(きっと不発に終わる小さなすべりはうんとこあるでしょうから)という風に問題は山積です。でも、地震発生のメカニズムが理解できていて、断層深部に直接センサーをバカスカ埋め込んであって、断層の現在の状況と今現在何が起きているのかを刻一刻とトレースできれば「次どうなるか?」も必ずやわかるようになることでしょう。
テレビに例えて言えば、仕組みがわかっていて、どのチャンネルになっているかもわかっていて、あとはこのスイッチがパチリと入れればオッケーという状況ならば、スイッチの動きさえ観測しておけば「あ、テレビが付く!」ということがわかります。そのうえ番組表まであれば、出演者までわかるでしょう。あったりまえの話ですが。
で、可能か不可能かと言うと、来週とか来月というレベルではちょっと無理でしょう。なんでかって? そりゃなにせ我々は未だかつて誰も震源領域まで掘ったこともなければ、見た事も触った事も、ましていわんやセンサーも埋め込んだ事もないからです(地表の活断層は触れますよ。でもあれは地表でしょ。地震波を発生させる震源は地下深くにあるのです。活断層はナマズで言えばシッポか影みたいなものでしょう。とはいえ地下の震源の動きを見事に教えてくれますが)。臨界すべりだって実験機では観測できるけど、天然の断層ではよくわからないのです。
そんな状況なのです。我々の理解や観測技術そして掘削技術は圧倒的に不足してます。でも、お金と時間をかければきっとできるっしょ。理論上はできるのですから。単に技術的問題なのです(←それを一般に不可能というが)。いやいや理論上不可能なことは何億年経っても不可能なままでしょうが、理屈でできるはずの事がいつまでも不可能というわけにはいかんでしょー今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
大中 康誉・松浦 充宏 著 「地震発生の物理学」
(直前予知に関しては私の個人的な感想です)