地震と活断層(4):予知はすでに実現されてる?
update 2003.5/12
あら、うちのはA級ですのよ
さて前回の講議で活断層がどーして危険かはわかったわけですが、こうして日本の活断層のマップを見てみると、あちこちにありますねえ。おいおいうちは大丈夫かいな?と思っていることでしょう。しかしこうして見てみると、なかなかどうして長いのやら、短いのやら、たくさん集まっていたり、まばらだったり。見るからに立派な長さのものもあれば、短いのやら、とぎれとぎれなのもありますね。でも、活断層のすごさってなんでしょう? 活断層のすごさはやっぱり活動度の大きさでしょう。実は活断層にもランクがあるのです。AとかCとか。では、それはどーやって分類したのでしょうか。どーしてうちの活断層がCなの?理由を聞かせてちょーだい。はい。それはこうです。
1回の地震で数m動いたとしても、それが数万年間に何百回も繰り返されたら、トータルでけっこうな変位量が蓄積されてることでしょう。これがわかるだけでも、たいしたもんですが、それだけではなくて、次いつ、どの位の地震が来るのか知りたいでしょ?そうでしょうねえ。ええ。 |
前に話しましたように、第四紀以降に動いている断層を活断層と定義しました。ってことはたくさん動く奴もちょっとしか動いてない奴もすべからく活断層なんですね。で、そいつらにグレードをつけてやろうってわけです。例えば20000年前にできた段丘地形を150mずらしている奴もいれば、6500年前の地層を70m動かしている奴もいるのです。こういった変位量は、1回の地震でできるわけではありません。何回も何回も動いて、その積み重ねの結果なのです。ですから1回の地震で何m動くかはわからないし、何年おきに動いたかもわかりません。トータルの量なのです。
で、これを1000年で何m動いたかで表したのが、活動度ってやつです。1000年でミリオーダーの変位ならC級。センチオーダーならB級。メートルオーダーならA級ってわけです。ちなみに四国には、世界でもトップクラスの中央構造線と南海トラフを有しており、ともに1000年で10mオーダー!で、A級の上のAA級(業界トップクラス)という抜群の活動度です。(なんだか入院患者同士が、重病自慢をしているみたいだ)。
おおお、なるほど。でもまてよ。そうじゃなくて、いつ、どこで、どれくらいの地震が起きるのかを教えてくれえ、と思ったことでしょう。確かにそういう気持ちはわかります。今の話はそういう話じゃなかったんですね。少し戻って考えてみましょう。日本中どこでも危険性は同じなのか? いいえ。活断層のある場所はとくに起こる可能性が高いですよ。しかも活断層にもグレードがあって、中にはめちゃ危険性が高いのがありますよ。って話だったんですね。
地震の周期と活動度
では、いつ、どこで、どのくらいの地震が起こるのか? の話をしましょう。
ところで国内の内陸性地震の最大のものは、どの地震が知ってますか? (プレートの沈み込み帯で起こる地震が内陸性の地震よりもはるかに大きいことは、前にちょこっと言いましたが)。はい、内陸型の地震で最大なのは、濃尾地震ですね。根尾谷断層が8mも動いてM=8.0(モ−メントマグニチュードなら7.1)の地震が起きました。今じゃ博物館が建っています。ぜひ見に行きましょう。
1回の地震で数m動いたとしても、それが数万年間に何百回も繰り返されたら、トータルでけっこうな変位量が蓄積されてることでしょう。これがわかるだけでも、たいしたもんですが、それだけではなくて、次いつ、どの位の地震が来るのか知りたいでしょ?そうでしょうねえ。ええ。 |
で、関係ないけど、伊豆半島のつけねに丹那断層があります。旧国鉄が東海道線のトンネルをこの断層を貫ぬく計画がありました。そしたら、なんと!その工事中に断層が活動し、丹那地震が起きました! 工事はまさに、断層帯を掘進中で以上出水で苦戦し、工事を中断していた時に地震が起きたので、幸いにも工事関係者に犠牲者は出なかったそうです。で、この2つの地震は(双方とも地震と断層活動の観察が同時に行われたという革命的事件なんだけど「地震=活断層活動」をもはや常識と信じて疑わない皆さんには、このすごさがわからないだろーなあ)、一見互いに関係ないんだけど、両者の活動度を見てみましょう。教科書によると根尾谷断層は14000年間に28m動いたそうです。するってぇと2m/1000年ですね。一方の丹那断層は50万年間に1000mですから、2m/1000年。お!いっしょですね。活動度は。でも濃尾地震では根尾谷断層は8m動いたわけですから、4000年おきに大地震?! そんでもう一方の丹那断層は1回の地震で2mだから、1000年おきに活動する?!という計算も成り立ちませんか?
累積量
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平均変位速度
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前回の地震の時の変位量
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周期??
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根尾谷断層 |
28m/1万4000年
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2m/1000年
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8m
(濃尾地震) |
1度に8mなら4000年おき? |
丹那断層 |
1000m/50万年
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2m/1000年
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2m
(丹那地震) |
1度に2mなら1000年おき? |
でも、ほんとう?? うーん。そんなに簡単なのでしょうか? それとも、そうは問屋が卸さないのでしょうか。でも、おもしろい問題でしょ? 同じ活動度でも実際に起きた地震の規模は全く違うし、単純な割算から地震の予測ができるのかもしれないし。
わからないことだらけですが、やはり活動度だけでは満足できない。その先にいってみたいという気持ちが起こるでしょ?では、実際に断層はどのような間隔で、どんな規模の地震を起こし続けてきたのでしょうか。
断層の活動パターン
そういった活断層のこれまでの前科(犯行時間と内容)を調べる方法は、すでにいくつか編み出されていて、徐々に各断層のカルテが作られ始めています。ただし具体的な調査の方法や理屈については、このサイトでは省きたいです。なぜなら高知大の「防災科学C」や、基礎科目の「地震列島に生きる」などの講議では調査現場の生々しい話が聞けるはずですし、ホームページもありますので、こちらを見て下さい。ここではその解析結果から考え出されているモデルを中心に話を進めて行きましょう。
レギュラースリップモデル これは毎回、一定周期で、同じクラスの地震が起こるパターン。こうだといいですね。簡単で。 |
どうも活断層は、ある年月おきに決まった規模の地震をくり返して起こすと言うわけではないようです。つまり一定の間隔で決まった大きさの地震がくり返されるわけではない、ってわけです。では、めちゃくちゃのまちまちなのかというと、そうでもないらしいんですね。で、右図のような3つの活動モデルが提案されています。
(1)地震の間隔と規模が一定なレギュラースリップモデル。
(2)大きな地震が来ると次の地震までの間隔が短く、地震規模が小さいと次の地震 はすぐに来ると言うタイムプレディクタブルモデル。
(3)前回の地震からの時間が短ければ次の地震は小さく、長期間たってから来ると 大きな地震が来るというスリッププレディクタブルモデル。
このうち、どうも天然の断層の活動記録では、この2番目のタイムプレディクタブルモデルがあてはまる例があるらしいのです。まだまだ解析例は多くないいんですが。そして力学的にも最も説明しやすいモデルです(後日説明します)。
タイムプレディクタブル(時期予測可)モデル こいつは前回の地震の規模からスタートして、変位しない時間が青い線の時期まで経つと地震が起こるタイプ。前回の地震は小さめだったので、次はすぐに来るゾ。みたいな。 |
つまり、前回の地震規模と次の地震までの期間との間には一定の割合があるらしんですな。右図で説明すると、縦軸が断層の変位量で横軸が時間。変位量は毎回の地震でばらばらなんだけど、休んだり動いたりしながら結果的にはどんどん変位して行く。これがもし横ずれ断層だったら道路や川が地震のたびにちょっと動いて「直そっかなあ。ま、これくらいならいいかあ」と思っているうちに放っていたらけっこうな食い違いができる、みたいなもんですね。だからこの階段状のグラフの下をつないだ直線が、長ーい時間で平均した変位速度ですね。で、ここからが大事なんだけど、ある時地震が起きて、それから長い年月が立ちました。で、前回の地震の変位量から真横に延ばした直線がこの変位速度の線に接した時に次の地震が来るって考えられます。
つまり簡単に言うと活断層の活動史がわかったなら、次の地震がいつくるのか予測できるってわけです。こういうレベルで良ければ予知は実現されているのです。ただしこの予知は数100年とか数10年といったレベルの話で、精度だってまあそんなもんです。テレビや週刊誌が期待するような直前予知ではないので、ちと残念ですね。しかしもし明日突然、直前予知が実現して「あと10時間後に来ます」とわかったとしても、理学部1号館が急に丈夫になるわけではありません。でも、「50年以内に来ます」とか「理学部棟の寿命のうちにはきません」とかわかれば、都市計画上とても便利ですね。
スリッププレディクタブル(変位量予測可)モデル こいつはある時地震が起こると青い線のラインまで変位するってタイプ。だから前回から200年経っているから、今起こればM7クラスの、、、みたいな。 |
さて、ついでに3つ目のモデルも説明しましょう。これはスリッププレディクタブルモデルといって、さっきのモデルに似てますが階段状のグラフの上に直線が引いてある点が違います。これはさっきとは逆に「いつ来るのかは、わかりません。でも今日来るならこれだけの変位量があるでしょう」というもので、地震の規模がわかるというモデルです。ですからこれも都市計画上でいうなら、「このビルの寿命のうちに来る地震は最大これくらいだな、、、」という風に使えます。
なるほどおもしろい特徴があるもんですね。でも、なんだってこんな法則性を持つのでしょうか? どんな理由があんねん? と、思ったことでしょう。
ところで我々が地表で見ている活断層は、いわばナマズのしっぽのようなもんなんです。つまり本当に地震波を発生させている震源領域は活断層の延長はるか地下、ずーっと深部にナマズの本体があるのです。そして人類はこのナマズの本体にいまだ触ったこともありません(わずか数kmなのに!)。で、しゃーないから、しっぽを調査したりナマズが起こした波を聞いたりして、ナマズが何を考えているのかを必死に思い巡らせているのです。あああ直接見てみたい!
ですがそんなことはかないません。しかし地下深部の震源領域には、タイムプレディクタブルモデルの法則に従って活動するメカニズムがきっとあるはずです。そんな地下深部で何が起きているのかを理解するために次回からは破壊力学に話を進めましょう。
今回は下記のサイトと本を参考にさせていただきました。
岡村土建のホームページ
松田時彦 著 「活断層」
池田安隆 著 「活断層とは何か」
島崎邦彦・松田時彦 編 「地震と断層」