地震と活断層(25)地震の巣 深いところで起きていること
update 2006.1/16
転位クリープで変形した岩石
では、実際のところ断層の深部で、岩石がb転位機構でもってぐにゃーって塑性変形したら、どんな風になっているかっていうと、マイロナイトっていう断層岩になっています(第23回、第24回参照)。こいつは個々の鉱物粒子が引き伸ばされた形をしており、きれいに配列してて、だいたい同じサイズに整っています。顕微鏡で見ると整然としてて、とてもきれいです。マイロナイト研究してぇ〜と思う人の気持ちがよくわかります。そんで、どれくらい深いところでこれができるかというと、石英という地球では一般的な鉱物の場合、おおよそ温度にして300℃を超える領域でできると教科書に書いてあります。それくらいの温度になると断層の歪み速度でも、石英はどんどんどんどん塑性変形して、断層がずるずるとクリープするようになります(ここ重要ですね。結局の所、ちょっとくらい温度が高くても、すごい速度で歪ませればバキッと破壊しちゃいます。でも、ゆっくりなら軟らかいってことです。もし、断層がプレートの速度で塑性変形できれば、決して地震は起きないでしょう)。
ところで地殻は石英だけでできてるわけじゃありません。いろんな材料からできています。鉄もダイヤもアルミも、、、、いろいろ含まれてます。っていうかいろいろ含まれてなきゃ生活に困ります。そして、いろんな元素がいろんな天然の化合物としての鉱物をつくります。そして塑性変形のしやすさも、鉱物次第でいろいろ違ってきます。マイロナイトにも塑性変形しやすい鉱物やら、しにくい鉱物までいろいろ混ざっています。
鉱物はぐにゃーって変形して、適度なサイズの、適度な形になっていきます。この「適度なサイズや形」になるのは、表面エネルギーのせいです(第7回参照)。そして変形しやすい鉱物がたくさんある場合は、全体としてまるで水やアメが流れるような組織をつくります。変形しにくい鉱物は、まるで流氷のように回転したり、割れたりします(流氷を見たことはないのですが、、、)。マイロナイトはそんな風に観察されます。
深遠な世界にかかる力
さて、そんな塑性変形と地震の関係の話です。何度も言ってますように(第23回、第24回参照)、広大な断層の中でも大地震が起きる場所は限られてます。深い部分では結晶転位によってズルズルすべっています。つまり応力を支えられません。弱いです。マイロナイトがどんどん生産されるのみです。でも、中位の深さの地震発生帯では、大きな応力を支えられます。強いです。そう巨大な地震エネルギーを蓄積できるくらいに。つまり断層の強度とそこにかかる力は、地震発生帯がピークだというわけです。図に描くと右のようになります。浅いほうから言いますと、断層運動は摩擦なので、垂直応力が大きくなると摩擦強度が上がります。つまり深くなって封圧が上がると、摩擦抵抗力は大きくなります(第15回参照)。しかも封圧が上がると、岩石の強度自体も強くなります(第x回参照)。でも、深くなると温度も上がってきます。上がりすぎると結晶転位機構が一気に働き始めます。すると強度は急激に落ちてしまいます。そして深部では、ズズズズとすべってしまうってわけです。この断層強度の断面は、京大の嶋本さんの実験によって明らかになった有名なものです。
地震の巣の石
さて、断層深部の塑性変形帯が地震とどう関係するかって話です。ずるずるすべっている点がポイントです。ここで第15回〜21回の摩擦力学を思い出してみましょう。震源核と呼ばれた、すべりの開始はずるずるとしたクリープから始まりましたね(第17回参照)。そう、摩擦表面における部分的なズルズルすべりから、断層全体の破壊へと発展していくのでした。おお、そうでした。そうでした。そして震源領域と、深部の塑性変形領域の境界付近では、高い応力がかかっていて、かつズルズルすべりも起きつつあるのです。つまりこういった部分から、地震が始まるのかもしれません。
そう考えてみるとこのマイロナイトという岩石が震源核っていうか、地震の巣ともいうべき岩石なのかもしれませんねえ。
ショルツ 著/柳谷 俊 訳 「地震と断層の力学」
島崎邦彦・松田時彦 編 「地震と断層」