地震と活断層(21)摩擦力学ダイジェスト
update 2005.4/2
いいですか?
ここまで摩擦力学と固着すべりの力学について学んできました。いろんな話がでてきたので、たしかに「何の話しだったっけ?」って感じになってきました。いったんまとめておきましょう。そもそも地震の繰り返し活動のパターンはどーやって生じるのかってことでした。断層が急に動いたり、停止したりといったパターン。固着すべりってどーやっておきんのよ。断層の摩擦ってどうなっとんじゃあーってことでした。んで、摩擦力学を学びました。
摩擦。ダイジェスト版
すべってるソリを下から透視したら、こんな風にパッチ状の部分が全体を支えているというイメージです。 |
摩擦力学のミソは部分接触でした。摩擦表面は一様でなく、でっぱり同士が噛み合ってて、こいつが摩擦を司るというアイデアです。この噛み合ってる面積をアスペリティと呼んで、そのサイズが増すと摩擦も大きくなりました。そんで摩擦係数というのは、アスペリティが、どんだけデカく成り易いのか、そしてどんだけ強いのかの2つで決まりました。つまりアスペリティがデカくても個々の噛合いが弱ければダメですし、その逆なら摩擦も大きくなります。でもって、アスペリティのサイズは荷重や時間に応じて増えました。でっぱりであるアスペリティは荷重が増えても(ぐにゃっと変形して)増加するし、たとえ荷重がそのままでもほっとくだけでも徐々にアスペリティは(やっぱぐにゃって変形して)増加するからでした。
垂直応力が増えても、じっと置いといてもでっぱりは変形して、アスペリティが増加する。 こいつが ・停止時間によって摩擦強度を増加させたり ・動き始める瞬間に強度が跳ね上がったり ・動き始めたら急に弱くなったり させるのです。 |
この変形するアスペリティというアイデアが、摩擦の重要な2つの特徴、垂直応力依存性と速度弱化を実にうまく説明するのでした! 特に速度弱化は、固着すべりには決定的に重要な特性です。面の接触時間が長いほどガッチリ固着するし、すべっている最中には接触時間が短いので、摩擦が小さいって特性です。こいつのおかげで、断層も地震の時には一気にすべりますし、停止している普段の時は、強度回復して次の地震の準備ができるのでした。
- 摩擦の表面はでっぱり同士で接してて、それをアスペリティと呼ぶ
- 摩擦係数はアスペリティの増加しやすさと、その強度で決まる
- アスペリティは荷重や接触時間に応じて増える
- アスペリティの時間依存性が速度弱化(と停止→強化)をもたらす
じゃ、次にいきましょう
とゆーわけでした。で、ここまで話してきたアスペリティですが、荷重や時間に応じて増加します。ってゆーか、してくんなきゃ困ります。でないと速度弱化や強度回復が実現しません。固着すべりや断層の繰り返し活動が起きません。だから断層をつくる材料もそーんな岩石でできなきゃまずいでしょう。ねえ。
岩石はそう簡単に塑性変形しません。はい。 |
アメや柔らかい金属の棒ならオモリの重さは一緒でも徐々に変形するでしょう。 |
金属の摩擦なら、これまでの講義で話したセオリーでうまく説明できるでしょう。でも、岩石ならどうかな?? |
でも、まてよ。震源断層をつくる岩石ってそんな特徴もってるんでしょうか? 墓石のような岩石のブロックを2つ重ねたとして考えてみましょう。表面はパーペキにぴったりくっつくことはなく、でっぱり同士が接して、アスペリティが全体の重さを支えるとします。うんうん。きっとそうなりそうな気がします。では、このブロックにもっと荷重を載せたらどうなるでしょう? アスペリティは増えるでしょうか? 答えはきっとYESですね。岩石といえども少しくらいは弾性的に変形します。荷重に応じて、グッと変形して、接触面積は増えるでしょう。よしよし。
じゃ、次に時間依存性はどうでしょう。 じーっとおいておくとアスペリティは増えるでしょうか? うーん。こいつは難しそうですね。荷重は一定で、時間だけが過ぎていくのです。一晩おいたらアスペリティは増えてるでしょうか? そんなことはなさそうですね。だって岩石はだまって置いてても変形したりしないですね。フツーは。これがアメとかチョコなら、ちょっと暖かい部屋においておけば、荷重を増やさなくてもジワーッと変形するかもしれません。チョコのカタマリならアスペリティはきっと増えるでしょう。
こういう風に応力が一定でも永久歪がどんどん増えるのを塑性変形と呼びます。岩石は低温ではほとんど塑性変形しません。墓地で墓石が自重でいびつになったり、城の石垣が低くなったり、石橋がたわんだりしてるのを見たことありません。この塑性変形というのは、弾性変形(第5回参照)とは決定的に違うので、混同しないでくださいね。弾性変形は応力を掛けたら一瞬で生じて、そのまま置いてても変化しません。でも応力を取り除くと一瞬で回復します。完全に。一方、塑性変形は応力一定のままでも、どんどんどんどん変形し続けます。応力を取り除いても元には戻りません。永久歪みですから。
「ああ、わかりましたぁ 震源断層は地下深いとこにあるから、温度が高くて、それで変形するって言いたいんでしょ。はいはい。」
いい質問ですね。おもしろいです。でも、とりあえずそうじゃなくて、私が言いたかったのは、ここまで説明してきた摩擦の話は、金属を使った実験から考察されてきた特徴で、岩石じゃないんだよぉぉってことです。金属は室温でも塑性的に変形します。弾性的にも変形もしてくれます。速い変形には強く、ゆっくりした変形には弱く振舞います(例えばアメの棒も同様で、急に曲げると硬いが、弱い力でもゆっくりならジワーッと変形する)。アスペリティの接触時間が長いとグニャっと広いエリアが噛合い、動かす瞬間には強度が跳ね上がり、動いてる最中ではツルツルってすべる。そんなアスペリティの挙動を見るのにとっても都合のいい材料ですね。
では、実際の震源断層ではどうなんでしょう? 固着すべりを起こすという点はよく似てます。でも材料が違います。断層の岩石はどんな特徴を持っているのでしょう? また、システム全体も理解しないと、固着すべりの繰り返しパターンはわからないということもありましたね(スティフネス:第20回参照)。実際の断層を調査しないと、実際のところはわかりません。てなわけで、次回からは震源断層がどんな岩石でできているのか、とか、プレート沈み込み帯ではどんな力が働いているのかと、いう方向にいきたいと思います。