地震と活断層(23): 広大な断層のどこかに
update 2005.9/9
きっとどこかに
さて、前回は断層岩には、どんな種類のものがあるかって話でした。で、その断層岩は断層中にどんなふうに分布しているのでしょうか?
断層と一言でいっても、かなりでかいです。地表に活断層として顔出している奴でも、長さ数〜100kmもあるのがざらです。その上、プレート境界そのものを広い意味で断層としたら、もはや日本列島よりもはるかに長いです。しかもプレート境界はマントルの深ぁ―いとこまでつながっています。少なくとも下部マントル境界、深さ600kmくらいまでプレートは沈み込んでいます。もはやこうなると日本は断層の上に浮かんでいると言っても過言じゃありませんね!(あ、やっぱ言い過ぎか?)。
このでっかいプレート境界に、年数cmの速度でプレートは沈み込んでいきます。そして時々巨大地震が起きます。どーん! でも、巨大なプレート境界全体が固着すべりするわけじゃありません。沈み込んで、深くなるとすぐに温度が高くなるので、プレートも軟らかくなってプレート境界は弾性体でなくなります。グニャッてなって、ズルズルってすべってしまいます。あーっ、これじゃ地震が起きなくなーい?って感じでしょう。きっと。これは南海トラフの場合だと、ざっと10〜20kmちょいくらいの深さで巨大地震は起きなくなります。プレートは数100km沈み込んでいるのに、巨大地震を起こすのは入り口の10数kmのあたりだけ、、、
うーんめちゃ浅い。入り口の部分だけが固着すべりをしているんですねえ。しかも、もうちっと詳しくみると、5kmより浅い部分は軟らかい付加体の部分です。付加体ってのは以前にもちょびっと説明してますが、海溝にたまった海底堆積物が陸側の地殻に押し付けられている部分です。そこは砂や泥のかたまりなので、軟らかすぎて地震は起こしません。つまり浅い部分も深い部分も、ぜーんぶ安定すべりなのです。固着すべりを起こせる(巨大地震が起きる)部分は、めちゃ限られているんですねえ。
その全貌が
というわけで断層の断面を考えて見ましょう。ま、簡単にいうと3つの部分に分けられましたね。浅くてぐにゃぐにゃの部分、固着すべりを起こす中位の深さの部分、高温でぐにゃぐにゃの深ーい部分です。そしてそれぞれの部分は、どんな断層岩からできているのでしょうか?
まず浅い部分は付加体です。ここはさっき言いましたように軟らかい岩石でできています。っていうか堆積物です。つまり前回の断層岩分類で言うならば、未固結のガウジやブレッチャがあります。頼りなくてやわかくて、地震は起きません。
中位の深さの部分。ここは地震が起こる部分です。付加体の堆積物は徐々に岩石に変化して、弾性的に振舞うようになります。かなり硬いはずです。硬い断層が固着すべりを起こしている部分です。じーっと弾性歪を溜め込んで、限界に達するとバーン!と一気に開放します。そのへんの岩石はバキバキに割れるでしょう。なかには摩擦熱で溶けるものもあるかもしれません。つまりこの深さにはカタクレーサイトやシュードタキライトがあります。
そしてもっと深いところになると、岩石は軟らかくなってきます。と、言っても溶けるわけじゃありません。溶けるよりもずっと低い温度でも、物質は軟らかくはなるのです。それは例えばアメだってそうですね。鍋に入れて加熱すれば溶けますが、もっと低い温度、夏の車内でも軟らかくなってシートを汚します。金属も真っ赤になって溶けるよりもずっと低い温度、室温でも軟らかいです。岩石もそれといっしょで、融点よりはるかに低い温度で軟らかくなります。よっておおよそ300-350℃程度の温度で、もはや巨大地震を起こすに十分な強度は失ってしまうのです。と、なるとこの深さにある断層岩はマイロナイトですね。もっと深くなると次々と起こる化学反応にっていろんな鉱物ができて、堆積岩は変成岩へと変化します。でも、断層の変形は、ずーっと塑性的ですので断層岩としてはマイロナイトと分類されます。どんどん深くなって、マントルに至り、プレートももっと軟らかくなり、周囲のマントルと力学的に一体となるまで(それって断層がなくなるってこと)、マイロナイトが分布します。
それにしても、こうして見ると地震を起こす領域ってのは、マジで狭いですね。ほんの少しの、いわば特殊な部分だけが固着すべりを起こして、私たちにとんだ災難が降りかかってくるのです。こんなとこは存在せずに、プレート境界はぜーんぶ安定すべりならよかったのに。
この秋は断層柄で差をつけよう
と、いうわけで断層岩は深さによって住み分けているってことがわかりました。うーん。なるほど!わかった。そんで地震性の固着すべりを起こす中位の深さには、カタクレーサイトとシュードタキライトがあるってわけだな。理解した! と、いう気がしてきましたか? そうでしょー。 きっと大枠はそれで合っているでしょう。でも、細かく見ると、そう簡単でもないようです。実際はもう少し複雑だと考えられます。
なんでかっつーと、こないだまでやってた摩擦の話を思い出してみましょう。アスペリティってどんなんでしたか? はい。すべり面には力学的に強い部分と弱い部分が不均質に分布するってのがキモでした。それでいけば断層面上にも、きっと力学的に強い部分と弱い部分がありそうです。もしそうなら、断層の岩石も破壊のされ方がいろいろになりそうです。つまりアスペリティの分布が不均質なら、断層岩の分布も不均質。そう思いませんか?
だから細かくみたら断層岩の分布はきっと複雑で、上の図のように深さによる、シンプルなシマシマではないだろうな、と推測されます。なるほど。
で、実際のところ、どーなんよ。と、聞きたくなるでしょう。ところがぎっちょん、あなた。それがわかっちゃいないのですよ。断層岩の分布がどんな模様になっているのか? マダラなのか、ゼブラなのか、ヒョウ柄なのか、よくわかっていません。
どーしてわからないのかっていうと、なんたって震源は地中深くにあって、手が届かないからです。だから力学的な状態もわかってませんし、どんな断層岩が、どんな模様で分布しているかもわかっていないのです。今回話しました断層岩の分布も、前回同様に過去の断層の調査から推定されている話で、今現在活動中の震源断層を調査したものではありません。現在活動中の震源領域がどーなっているのか? いやあ見てみたいもんですねえ。
今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
ショルツ 著/柳谷 俊 訳 「地震と断層の力学」