地震と活断層(5):ストレスがたまらねー

update 2003.5/15

ストレスとは何か

加速させる力で考えるんですねえ。ニュートンは。
 
1Nを1m2に受けたのがパ・ス・カ・ル
さあ、手を離すゾ。戻るか?戻らぬか??

  ストレスがたまった? まさか。ストレスが溜るはずがありません。なぜならストレス(stress)っていうのは、面積に対する力の大きさで、単位はパスカルで、1Pa=1N/m2です。ちなみにこのN(ニュートン)っていうのは、1Kgの質量の物(サイズ関係無し)を1m/s加速するのにいる力の大きさってわけです。すなわち1m2に何Nかかってますかーってのがストレスなんです。力は溜りません。

 さて、このストレス、応力と呼びますが、こいつが地質体にかかることによって地層は褶曲し、断層は動き、地震が発生したりいろんなことを引き起こします。つまり応力がかかることによって地質体が歪んで、その結果としていろんなことが起きるのです。教科書がいうところの「応力と歪み」の話です。こういうと難しそうですが、まあそんなことはありません。物体に応力がかかって、その結果生じること、物体の回転や膨張・圧縮、形態変化、ぜーんぶ「歪み」です。例えばバネを押すとバネが縮みますが、これはバネにかかった応力に従って歪んだですね。ちなみに押すのを止めるとバネは元の大きさに戻るんですが、これは蓄積されていた弾性歪みが反発したと表現します。

 つまりストレスは溜まらない。溜まるのは歪み(strain)なのです。これからは「ストレインが溜ったー」と言うべきでしょう。ついでに言うといわゆるストレス解消法ってのもヘンですよね。例えば上司からのストレスを温泉で解消しようにも、温泉に行ったからといって上司がいなくなるわけじゃないんですよ(すなわち外力はなくならない)。ストレスを解消するには、外力を亡きものとするか、温泉に行ったっきり帰ってこないということでしょう。一方、ストレインでしたら応力から一旦解放されれは、きっとバネが伸びるがごとく解消されることでしょう。

地質学の限界

 さて今の例に出てきた歪みは「弾性歪み」という奴ですが、歪には2種類あって、今の「弾性歪み」と、もう一つを「永久歪」っっていいます。どう違うかと言えば、弾性歪はまさにプラスチックみたいな奴で、プラスチック定規をギューっと曲げるとけっこう曲がるけど、手を放すとパッと復元するあれです。完全に元にもどってしまう。こういう性質を持つ物を弾性体といいます。

 一方の永久歪みと言うのは、一旦曲がると応力から解放されても元には戻らないというものです。プラスチック定規も曲げ過ぎると、曲っている部分が白くなって2度とまっすぐに戻らなくなってしまう。あれです。両者をちゃーんと区別して考えることは大事です。弾性歪みは応力解放によって完全に解消されるし、永久歪みはそうじゃないってことです。

例えば
質問:
  プラスチック定規を曲げて、手を放したら定規は元に戻りました。
  さて回復した定規から、さっきどれだけ曲っていたかを見積もりなさい。

ってわけっです。「わかるわけないじゃん!そんなこと」って言いたいでしょ。

ええ、基本的には解答不可能です。これが弾性歪です。何の痕跡も一切残さないのです。だからいくらプレートが日本列島の下に沈み込んで、その応力で日本列島が弾性的に歪んでも、結局は歪みが解消されれば、消え去ってしまうのです。完璧な証拠隠滅型。でも弾性歪のエネルギーのほんの一部でも永久歪の形成に使われたらどうでしょう。つまり岩石の変形構造や断層などです。そうこれらは永久歪なのです。変形した岩石は応力から解放されても元の綺麗な地層には戻りません。2度と再び。永久歪みなんですから。地質屋の見ている露頭やコアに記録されているのは永久歪であり、我々はそっち側から当時のことを推測するのです。

世界は歪む

メカニズムで見るとわかりやすいです。なんでもこうだといいですがね。

  ミクロなレベルで考えてみましょう。あらゆる物質は原子や分子などの粒子からできてて、お互いに手をつないで物質として成り立ってます。これらの粒子が相対的に動けば歪みなのです。回転も膨張・収縮もみーんな歪み。そして手がバネのように延び縮みするのが弾性歪み、手が切れる(もしくはつなぎ代える)のが永久歪みなんです。

  粒子レベルで言えば応力がかかる限り歪まない物質はないのです。橋もビルも岩盤も、ほんの少しでも応力がかかると、たとえ微妙であっても歪むのです。目には見えないレベルであっても。そしてバネの伸び縮みでなんとかなるか、ならないかが歪みが残るか残らないかなんですね(本当に例外ないかな? でも今言うと混乱するからな)


今回の内容はもはや一般的知識といえまして、特定の教科書を挙げるのは適当ではないと思われます。多くの教科書を参考にさせていただきました。

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地震と活断層

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2.活断層はなぜ危険なのか?
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