ログ解析から見た科学サイトの読者像
update 2006.9/29
自然科学とネット読者について考えてみましょう
ウェブサイトにアクセスすると、サーバーとパソコンの間でデータがやり取りされます。だからサーバーは「いつ」「どこから」「どのページが」といった事を知っています(ネットの基本ですね)。このアクセスログはマーケティングにめちゃ有益で、たいていの民間サイトではちゃんと解析されているってものです。「四万十帯に便利」のレンタルサーバーでもログ解析サービスがあり、月々の報告が見られます。そこでこの2年半のデータを整理してみて、科学サイトのケーススタディとして見てみたいと思います。
マジ!? 月に1万。年間13万!!
「四万十帯に便利」は、2003年3月からスタートしたのですが、当初は訪問者も皆無で、最初の100人に半年もかかりました。しかし2年目、3年目と爆発的にアクセスが増えて、3年半たった今では毎月1万人の訪問があるという信じられない状態です。マジですかー。ちなみにこの1年間は訪問者は13万723人で、37万1471ページビューでした。す、すごいです。私は毎日グイグイと伸びるアクセス数に、いったいどれだけ励まされたことでしょうか。いくら感謝してもしきれないほどです。私にできることはと言えば、せめて質の高いコンテンツを提供するべく努力させていただきたい。それだけです。
多くの方に読んでいただき感謝です。 |
ところで時々ものすごくアクセスが集中する時があります。2004年9月5日、10月23-28日、12月26-29日、2005年3月20-25日。そう紀伊半島沖地震、新潟県中越地震、スマトラ島沖地震、福岡西北沖地震の直後です。大きな地震が起きるたびにとブッ飛んだアクセス数になるのです。特に福岡北部地震の時は最大1210人/日を記録しています。正直言ってビビリます。ぎょっ。いったい何が起きているんだって。地殻の応力変化が作用しているのでしょうか? いや違うでしょう。2005年の1月17日は地震はありませんでした。そう阪神震災11周年でした。どうも地震への関心の高まりととも、きっと検索サービスに導かれて来るのでしょう(地震のたびに固定ファンが集中的にアクセスするという説も考えられますが、ファンが1200名もいるわけないでしょう)。
世の関心が地震や断層に向くたびにアクセスが沸騰します。 |
モール円でGoogleトップ
けっこう専門用語を検索して訪れる方が多いのですね。 |
では、読者の皆さんはどんな検索語で来訪しているのでしょう?検索語ランキングを示します。上位検索語(41762語)のうち、最も多いのが「地震・断層」で、「おもしろい写真」や「心霊写真」を完全に押さえ込んで、全体の41%を占めています。以下、おもしろい写真が17%、心霊写真関係が14%、モール円が11%、そして水圧、坂口製作所、摩擦力学、四万十帯、脆性破壊、、、と続きます。ここでのポイントは、なんたって「地震・活断層」といったキーワードが圧倒的だということです。「おもしろい写真」や「心霊写真」とったキーワードで来訪する読者もかなりの数です。しかしなんたって注目すべきは「モール円」でしょう。「おもしろい写真」や「心霊写真」が、一般に関心が高いことは容易に想像できます。でも、「モール円」が「心霊写真」に張り合ってるって、すごくないですか!? こりゃどうしたことでしょう??
推測しますにきっとこんな理由でしょう。まずネット上には「モール円」のようなマニア語であっても、検索する人がちゃんと存在する、という事実が第一のポイントです。次に「モール円」をググルと「四万十帯に便利」がトップに表示される(すごい!)ことが重要でしょう。「心霊写真」は「モール円」よりもマーケットはずっと大きいでしょうが、ライバルも多いので「四万十帯に便利」は上位に食い込めません。一方「モール円」はマーケットは小さくとも、その中で競争力があり、おかげで「心霊写真」に張り合うほどに読者の目にとまった、てなわけじゃないでしょうか。
この辺まさに検索サービスの特徴が出てますね。マイナーなコンテンツでもちゃんとリファレンスされており、上位に食い込めばアクセス急増ってわけです。
講義ノートが最も読まれている!
さて、「講義に便利」「巡検に便利」「坂口製作所は便利」「何かに便利」と4つあるカテゴリーから成りますが、このうち最も読まれているのは、ズバリ「講義に便利」なのです。ページビュー全体の実に55%を占めます。その次が「何かに便利」で、この2つでページビューの大半を占めます。すごいですねえ。心霊写真やムー大陸を押さえて、講義ノートが最も読まれているなんて。読者の方はなんとまじめな方ばかりなんでしょうか。
個人的には、このデータが最も衝撃的でした。こんなにも講義ノートを読む人がいてくれるんだあ、と。 |
次にどのページが読まれているのかを見てみましょう。ページ単位で見るとさすがに「心霊写真に写っていたものは?」が1位です。ページビューの13%をこのページだけで稼ぎ出しています。2〜5位は再び講義ノートが占めます。しかしここで注目すべきは、その他多くのページが55%を占めると言うことです。これはロングテールモデルじゃないですかっ。ロングテールモデルは既存の店舗とネット店舗とを比較した有名なモデルです。例えば既存の本屋では、トップ20%の書籍が売り上げの80%を稼ぎ出すのだそうです。だから儲けの事だけを考えたら売れ筋だけを置きたいところです。ところがネット本屋では、売れ筋と死に筋との割合は50:50に近く、売れ筋だけでは売り上げが半分になってしまうのだそうです。
売れ筋以外のそのほかのアイテム少しづついろいろと売れるので、シッポが長い、ロングテールって言うのだそうです。 |
つまりものすごくマイナーな事(モール円)でも、興味を持つ読者は存在し、かつ検索エンジンがちゃーんと導いて来てくれるってわけです。おかげで一見ウケそうにもない記事がちゃんとヒットされて、アクセス数を増やしていく。いやぁさすがインターネットです。すごいです。すごすぎます。というわけでモール円の解説も、固着すべりメカニズムもちゃんと書いておくことが大事ですね。
四万十帯に便利の読まれ方
次にこのサイトがどんな読まれ方をしているのか見てみましょう。まずいつ読まれているかですが、この2年半の結果を見ますと、ウィークデーに訪問者が多いです。土日祝日には低下します。特に正月休みは年間のグラフでもガクッと下がるのがわかります。また、時間のグラフを見てみると、ビジネスアワーに多いです。朝9時から17時までが多く、昼食や夕食時間はその前後よりも低くなります。夜は遅くなるにつれて低下し、明け方が最も低くなります。これはまさに多くの人の活動時間と重なっています。夜中にアクセスが増えるようなことはありません(テレホーダイ効果が無いことから、ほんとうに常時接続が普及したんだなあって感じるのは、もはや古いのでしょう)。というわけで、かなりの読者の方はビジネスアワーに見ているのですね。
次に訪問者数とページビューの推移を見てみましょう。この2年半の間、訪問者数もページビューも右肩上がりなのですが(ありがたい!)、1訪問者あたりのページビューは低下してきています。昔は各訪問者は平均5ページ以上読んで下さったようですが、最近は平均3ページくらいです。おそらく以前は関係者の方が多く、あちこちのページに目を通して下さったのかもしれません。でも、今は仕事中に、ちょっとした調べ物として検索サービスで訪れて、少しだけ読んで満足してしまう方が多くなったのかもしれません。どうでしょうか?? そういえば人気ページランキングでも、講義ノートの中でも「その1」「その2」「その3」と続きます。なかなか最後までは付き合ってられないようです。読者の皆さんは忙しいのでしょう。
でも、もしかしたら最近流行の「週刊日本の○○○シリーズ」みたいな本のモデルの方がピッタリなのかもしれません。あの手のシリーズは、第1巻が最も売れて、徐々に売り上げが減り続けるビジネスなのだそうです。最終巻まで買い揃える人は多くはなく、適当なところで終了させて、新シリーズを開始するのだそうです。なるほどねえ。では「地震と活断層」も長すぎるのですね。新シリーズにしますか。「地震と活断層Z」みたいな。
そこから見える読者像
ログ解析から見える平均的読者像を想像してみましょう。とにかく講義ノートを最もよく読む真面目な方です。地震とか断層にも興味があり、大地震などがニュースになると、気になって検索して勉強します。もちろん「おもしろい写真」や「心霊写真」にも興味がありますが、「モール円」だってかなりのものです。摩擦力学も熱心に読みます。ただ長いシリーズには、さすがに息切れしてしまいそうです。そして普通の生活時間で暮らしており、深夜や土日にはパソコンに向かう時間が減ってしまいます。そんな感じでしょうか。
教えてgooは求めている
こういったサイエンス好きな読者は、互いに疑問に教えあったり情報を共有したりもしています。「教えてgoo」というボランティアで質問に答えあうサービスがポータルサイトgooにあります。そこに「地学」のコーナーもあり、毎日多くの質問が寄せられてます。専門家の方が答えている場合もありますが、多くは一般の方らしいです(自己申告)。一つの質問に多くの方が答えて下さるのですが、名解答にはポイントがつきます。でも解答者は、単にポイント欲しさにやってるわけではないようです。どうも優れた解答を出すこと、それ自体がステータスのようです。
解答にはよく引用URLがついています。質問内容に的確な内容で、かつ信用あるサイトの引用が喜ばれます。質問者も解答者も質の高い情報を待ち望んでいます。わかりやすくて詳しくて新しい情報が望まれています。そして情報の質が保障される公的機関のサイトが重宝されるようです。つまりこの「四万十帯に便利」のような個人サイトよりも、学会や研究機関のサイトの方が信頼感があるということです。そりゃそうでしょうね。理解できます。
「はやぶさたん」を知ってますか?
ところで自然科学とネット読者の関係を考える上で、「はやぶさたん」は重要な事件です。これははずせません。2005年に日本の小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワを探査し、サンプルリターンに挑戦するというミッションがありました。着陸・離脱には成功したのですがサンプラーが作動しなかったために、マスコミから失敗だと叩かれたことは記憶に新しいです。でも、その時に孤軍奮闘する「はやぶさ」にエールを送るサイト、ブログ、書き込みがネット上では広がっていました。
はじめてのおつかいになぞらえて、擬人化された女の子「はやぶさたん」が満身創痍ながらも任務を果たすイラストはあまりにも有名です。また、たくさんの読者がJAXAの公表資料をつぶさに読み、「はやぶさ」の一挙手一投足に注目し、一喜一憂するさまは今でもネットのあちこちで読み返すことができます。サイエンスライター松浦晋也さんをはじめてとして、マスコミの「成功か失敗か」という安直な二分論にも痛烈な批判が書かれています。しかも「はやぶさ」ファンの方がちゃんと勉強していてマスコミよりも論理的なのです。きわめつけは「はやぶさたん」アニメ(例1、例2)でしょう。こ、こんなものまで作るのか!見るべきは「はやぶさ」に対する想いです。ヒシヒシと伝わってきてます。科学・技術ミッションをこんなにも応援し、支えてくれる人たちがいるんだ。涙が出てきます。
まとめと提案
ネットには自然科学に熱い想いをよせる読者層が存在します。この方たちはとても真面目で勉強家です。難解な資料や講義ノートも興味の持続する範囲とはいえ、かなり読みこなし、互いに教えあったりします。時には「はやぶさたん」を応援します。こういった読者は、自然科学研究の支持層となるポテンシャルといえるでしょう。
私たちは、こういった読者がいることを意識して、より質の高い情報をタイムリーに提供するよう努力すべきと思います。特に学会、大学、研究機関といった公的なサイトは、わかりやすくて、詳しくて、適度に高度な解説や関連情報や写真や動画などを普段から戦略的に整備すべきです。なぜなら情報の質が同じなら、「四万十帯に便利」のような個人サイトよりも公的機関のサイトの方が信頼され、より大きな影響力を持てるからです。そしてコンテンツは売れ筋ばかりでなく、マイナーな分野も整備すべきです。マイナーコンテンツが多数あることはロングテールモデルからみてもアクセス向上に必須ですし、しかもマイナーな分野であれば検索サービスで上位に食い込める可能性が高いからです。そしていろんなコンテンツが検索上位になってくれば、アクセス、引用、リンク数も増加し、一段と競争力がアップします。普段からいろんな検索語で上位に入っていれば、いざ世間の関心が向いた時に、アクセスが集中し、より広範な読者に目に留めてもらえるでしょう。それは私たちの研究分野の理解と発展に必ずやプラスに寄与するものと考えられます。
今回は、みなさんのアクセスデータを使用させていただきました。
ありがとうございました。