四万十帯に便利の用語集(その2)
update 2006.5/29
断層 だんそう
ズレのある地層の不連続面のことで、サイズも成因も結果も問いません。つまり地震を起こさない程度の些細なものでもいいですよ、未固結堆積物がズルッとすべったものでもよいですよ、でも乾裂のように単にカパッと開いたものは違いますよ、という意味です。地震→断層 はオッケーですが、断層→地震とは限りません。
プレートテクトニクス
厚さ約100kmの岩盤(プレート)が、何枚かに分かれて地球表層を覆っていて、こいつらが各々勝手な方向に動くという観測事実に基づくモデルです。プレート同士が離れあったり、すれ違ったり、沈み込んだりするおかげで、いろんな地質現象が生じます。っていうか、実に様々な地質現象をこいつで説明できちゃうシンプルさが偉大ですな。
露頭 ろとう
私は子供のころ、普段眺めている山々と、図鑑に出てくる地球の断面とが頭の中でつながっていませんでした。田畑の泥や森の土が地中深くまで、延々と続いているような気がしてました(こどもの掘削技術に基づく世界観)。でも、それは間違ってました。緑や土は、ほんの表面だけのことで、ディープなところは岩石の世界だったのです(むろん表面の現象は超重要ですが)。地球は岩石と金属の惑星だったんだあ。 深い谷や切り開かれた法面、そして波で削られた海岸には、地下の岩石が少しだけ顔を出しています。それが露頭です。ふかーいところの事を垣間見せてくれます。
タービダイト(乱泥流堆積物)
乱泥流が無かったら海底の堆積物はどーなっちゃうでしょう? 河川はたくさんの砂や泥を運搬しますが、海に入ると急激に流れは衰えちゃいます。そして沖合いには届きません。よって河口付近には、たくさんの砂や泥がたまりますが、ちょっと沖になると、もはやプランクトンの屍骸か、風が運ぶ塵しか堆積しません。こんな調子じゃ、はるか沖合いの南海トラフにはチャートしか堆積しなくなっちゃいます。ところがぎっちょん、乱泥流があれば話が違います。堆積物がぐちゃぐちゃに混ざった泥水は、ただの水より重いというのがポイントです。そうすると河川や風のような流れに乗らなくとも、自力で斜面を下り降りることができるのです。行動の自由を得た泥水は、斜面ある限り何100kmでも移動します。こうして南海トラフには泥、砂、礫といった堆積物が多量に堆積しているのです。乱泥流は、移動するにつれて徐々に速度を落としていきます。それにしたがって粒子のサイズは小さくなり、ラミナのパターンも変化します。こうしてブーマシーケンスという堆積相ができます。詳しくは正しい教科書を調べましょう。
コヒーレント
付加体でメランジュの対になる用語として登場します。でも辞書を調べると、位相のそろった、などというレーザー光線の説明などがでてきて混乱します。
メランジュの超重要性を強調したいあまりに、それ以外の地層を単純で整然とした、そうまさにコヒーレントな地層なんですよっ、という風に使われます。しかし実際に露頭を歩いてみると、メランジュ以外の地層も、付加体ではかなり変形を受けており、コヒーレントは言い過ぎじゃないかと思います。最近では、タービダイト相といってメランジュと区別することもあります。変形の弱い○○層と変形の強い××メランジュという言い方が間違いがないかと思います。また、成因に踏み込んで、剥ぎ取り作用で形成された○○層というのもありでしょう。
間隙水
泥や砂の粒と粒のスキマに入っている流体(液体や気体)のことです(ここ参照)。岩石に力をかけた時に、流体がスッと抜けるか抜けないかで、岩石内部の応力状態がコロッと変わりますし、流体が鉱物を溶かしたり沈殿させたりもします。力学的にも化学的にもいろんな現象が起きて、それらがまた相互に作用するので、より複雑な現象につながる予感しまくりです。マジでやばくなーい?
デコルマ
水平断層のことですが、付加体では、付加プリズム底面にあたる沈み込み帯境界を指します。付加プリズムがどう発達するのかということに対して、デコルマの摩擦がまじで重要な役割を果たします。もんじゃ焼きで言うと、ヘラを立てて、堤防を作ろうとする時、軟らかすぎても、焦げすぎててもできないのに似てます。
ピギーバック型スラスト
ブタの背中じゃありません。おんぶのことです。付加体のように、逆断層が海溝側へ次々に発達するってことは、逆断層の下盤に次の断層ができるってことです。つまり昔の断層のすべてを上盤にして(背負って)、新しい断層ができるのです。この場合、先端の断層が最もアクティブで、後ろ(陸側)の断層は死んだか死にかけてるということになります。
剥ぎ取り作用(オフスクレーピング)
プレートに乗った海溝の堆積物は、陸側に押し付けられます。そしてある弱い部分に水平の断層(デコルマ)が発達して、それより上の部分は付加します。これが剥ぎ取り作用です。斜めに逆断層が入り、地層がのし上げ重なるので、その分付加体は分厚くなります。
アンダースラスティング
付加する際にデコルマより上位は剥ぎ取られ、一方デコルマより下位はプレートと共に沈み込んでいきます。これがアンダースラスティングです。デコルマの摩擦はきわめて小さいので、剥ぎ取られた地層が側方圧縮を受けても(だから剥ぎ取りユニットにはスラストができる)、その下には上からの荷重しかかかりません。これがアンダースラスティングした地層の特徴です。
映画で言えば、列車の屋上で闘っていたらトンネルがやってきて、悪い奴が壁にぶつかったようなもんです。悪い奴は側方圧縮を受けますが、まだ足は列車の屋上にあります。列車は側方圧縮は受けませんが、垂直方向に悪い奴の体重は受けてます。
アンダープレーティング
付加体が厚くなるメカニズムの一つとして重要です。アンダースラスティングされた地層は、デコルマの下にあったのですが、物性の変化に伴ってデコルマがより壊れやすい下方へジャンプすると、それまでプレートと伴に沈み込んでいた地層は付加プリズムの底に付加されます。さっきの映画で言えば、今度は列車が衝突したようなものです。
デュープレックス
底付けされた地層は、下を新しいデコルマに、上を古いデコルマに挟まれてます。そして地層は側方圧縮により斜めに重なりあうという特徴的な構造を持ちます。これがデュープレックス構造です。
なぜこれが重要かと言えば、付加体を厚くするからです。まず剥ぎ取り作用で地層に地層を重ねて付加体は少し厚くなります。その下に底付けして一段と厚くなります。そのまた地下に底付けすればもっと厚くなります。ちょうど地下に増築する旅館のようですね。この底付け作用に特徴的な構造がデュープレックス構造です。そういえばデュープレックスマンションというのがありますが、あれは底付け作用とは関係ないようです。
OST(アウトオブシーケンススラスト)
アウトオブシーケンスを辞書で引くと「順番が狂った」とあります。何のことかと言うと、ピギーバック型なら最も新しい断層の下盤に次の断層ができるはずです。そして古い断層は徐々に持ち上げられ、傾斜し、低角逆断層もついには高角になってしまいます。こうなっては逆断層として機能できません。ジ・エンド。ところが、この古い断層が分布してる辺り、つまり次々に新しい断層ができてる付加体先端から見たら、かなり後方の非活動エリアに、古い断層をズパッと切って新しい低角逆断層が発達するのです。こいつがアウトオブシーケンススラストです。
最後に全員登場させてみました。