ムー大陸はあった? いいえ。ありませんでした
update 2006.6/28
まさに幻の大陸
たとえ南アメリカの文化と太平洋のポリネシアの島々の文化が互いに共通していたとしても、太平洋を地続きとするような巨大な陸地というものは、今現在も、1000年前も、1万年前も、1000万年前も決して存在しませんでした。いわゆるムー大陸の伝説では、今の南太平洋に巨大な大陸が存在したが、ある時突然沈んでしまって、今は広い太平洋が広がっているようですが、そんなことは全くありえません。これはとっくの昔に証明されていることです。
そこは深海堆積物で覆われている
石油掘削や研究掘削などによって、世界中の海底が数10年間のあいだにボーリングされまくられてきました(例)。太平洋も例外ではありません。しかし、太平洋の深海底は、どこもかしこも深海堆積物に覆われており、一度たりとも陸化した形跡はありませんでした。
深海底では、プランクトンの屍骸がしんしんと雪のようにゆっくりと降り積もっています。太平洋の海底は、東太平洋海膨で誕生してプレート運動によって移動ていきます。そしてマリアナ海溝に沈み込むまでに1億年ほどかかります。だから海底の年齢は場所によって異なります。若い海底ですと、ここ数100万年間の堆積物がつもってます。また、古い場所では1億年間の堆積物がつもっています。堆積するプランクトンの種類は海の深さによって変化するので(CCD参照)、海底がちょっとでも隆起してもすぐにわかります。ましてや陸化なんてしたら、海底堆積物は削剥され、陸上堆積物が表面を覆うことでしょう。そんなすごい痕跡を見落とすはずがありません。しかし太平洋のどこを掘削しても、そんな証拠は決して見つからなかったのです。どこの堆積物も、その場所が生まれてから今日に至るまでずっと深海底にあったとこを示しているのです。海洋底は生まれてからずっと深海だったのです。
そこには海洋地殻がちゃんとある
太平洋の年齢はこんな風に海嶺から両側に古くなってます。海嶺周辺は若い、と言っても軽く1000万年はたってます。そして海底は生まれてこのかたずっと海底だったのです。 |
堆積物の下には海洋地殻があります。こいつはわざわざボーリングしなくてもわかります。例えばエアガンなどによる人工地震波による構造探査なら音波速度の差は歴然です。もし巨大な大陸地殻の痕跡などがあれば一目瞭然なことでしょう。また、海洋地殻は地磁気の縞模様があることが有名です。海洋プレートが海嶺で生まれて、両側に広がる際に、地球磁場によって磁化されるのですが、地球磁場が変動するたびに磁化方向が変わるので、海嶺を挟んで両側に対称な地磁気の縞模様ができるのです。そしてこれをもとに海底の年齢がわかるのです。海洋底は海嶺で生まれて両側に広がるので、海嶺の年齢が最も若く、離れるにつれてどんどん古くなるというキレイなパターンができるのです。この海底磁気に基づく年齢の縞模様(まさに年輪ですね)は、海底地殻に特徴的で、太平洋中どこにでも存在します(例)。ムー大陸があるべき場所には海洋地殻があり、その年齢は巨石文明のイースター島でも軽く1000万年、サモア諸島付近では1億年くらいはあります。ちなみにこの海底磁気の縞模様によって推定される年代は、さっきの堆積物による年代とちゃーんと一致します。つまり太平洋は、人類発生(数100万年前)のずぅーっと以前から海底だったのです。
理論的にあり得ない
そもそも大陸地殻が沈んで深海底になったり、海洋地殻が浮上して巨大な大陸になったりしないのです。ここんとこが大事です! 大陸地殻と海洋地殻は全く別物なのです。まさに水と油。水と油を混ぜておいたら、ある日勝手に水の一部が油になったり、油の一部が重くなって沈んだりしないように、大陸地殻と海洋地殻が勝手に入れ替わったり、大陸が沈んだりしてはいけないのです。
このあたりのことをもう少し詳しく見てみましょう。
間違った世界観です。「地球は完璧な球体ではなく、ややへこんでいる→海? でっぱている→陸??」 いいえ!違います。そんなもんじゃありませんっっ |
海は海。大陸は大陸。まったく違う両者は、高さも大違い。同じ面の微妙な違いではなく、別物の2つの面なのです。 |
そもそも大陸と海洋とは全く異なる別物なのです。つまり地球表面のうち、なんとなく高い部分が陸地となり、ややへこんだ部分が海となっているわけではない、ということです。両者は厳然として別のもので、妥協を許さぬ両者は、地球表面に高さの違う2つの面をつくります。頻度分布を見ると標高の高い大陸地殻のピークと低い海洋地殻のピークを持つ2つコブのグラフができます。これがもし、干からびたリンゴの皮のシワシワならどうでしょう。もとは同じものが、たまたまでっぱたり、へこんだりしています。この頻度分布なら、中くらいの高さをピークとする一つコブのグラフが描かれるでしょう。二コブのグラフは、もともと違う別の面が存在することを意味するのです。それはちょうどテーブルの上に本を置いたような状態です。高さの分布は、テーブル表面の高さと、本の高さの二つしかありません。中間はないのです。このように地球の表面は、大陸と海洋の2つの面にくっきり分かれるのは、両者が互いに相容れない別の存在だからです。あいまいな立場は認められません。どっちにつくのか、陸か海か、白か黒か、花崗岩派か玄武岩派か。二者択一の厳しい世界です。
根深いモホ
地球はそもそも(40億年前)海だけの惑星でした。その後、まったく別物の大陸が発生して、2種類の高さができたのです。 |
もし、地球表層が一様に同じものでできてて、たまたま出っぱったとこが陸だというなら、モホ面はこんな風になるでしょう。 |
ところがぎっちょん、実際には大陸の下のモホ面は深いのでした。 |
ところでさっきのしなびたリンゴというのは、地球収縮説の例えです。地球が宇宙空間に熱を放出することにより、冷却・収縮し、表面のシワシワが山脈であるというものですが、もちろん間違っていた昔話です。この通りならさきほどのような2つのピークの高さ分布はできませんから。そしてもう1点、地球収縮説では、大陸下のモホ面の深さの説明がつきません。このモホ面つーのは、地殻とマントルとの境界のことです。地震波の調査により、地下何kmにモホ面がどの辺にあるかがわかるのですが、あちこち調べてみると、海底のモホ面だいたい5kmくらいの深さ。でも大陸のモホ面はもっと深くて、特に山脈の下ほど深いのです。しかも重力探査によるとやっぱ山脈の下には密度の低いものが根深くあるようなのです。つまり右図のように、たまたま高いところが大陸で、へこんでいるところが海洋というわけじゃないんです。密度の高いマントルの上に軽い地殻が浮かんでいる状態で、山脈のように標高の高い部分は、根元が深くなってバランスをとっているってなわけです。ちょうど氷山が水面からどれだけ頭を出すかは、根元の大きさに比例するのと同じです。このようにしてバランスがとれていることをアイソスタシーと呼びます。大陸地殻は軽くて浮いているってことが重要です。
つまり地球表層は密度の高い(重い)海洋地殻と密度の低い(軽い)大陸地殻があって、それが2つの高度分布をつくってます。岩石で言えば、海洋地殻は真っ黒な玄武岩や斑レイ岩からできていて、大陸地殻は白い花崗岩系の岩石でできています。何度も言ってクドイけど、大陸と海洋は材料も高さも厚さも違う(実は生まれも育ちも違う)のです。よって、大陸地殻が勝手に沈んで海洋地殻になったりしちゃいけないのです。
失われた大陸はなかった
というわけで、ムー大陸はアイソスタシー的にもあり得ないし、地球物理探査でも海洋地殻が広がっていることは一目瞭然だし、実際に掘ってみても、人類発生以前からずっと深海底だったことが明らかです。ムー大陸はもはや月のウサギと同じくらい存在しないと言えるでしょう。理論的にも、宇宙船から見ても、着陸して探してもウサギはいなかったわけですから。
え!? そんなことをムキになって言わなくてもいいって?? 夢やロマンが無いだろうって? そうかもしれません。でも、夢やロマンはムー大陸だけの専売特許じゃないのです。ナゾの大陸が忽然と消え去ってしまうのもおもしろいかもしれませんが、古代の人々がイカダで太平洋を渡るのだって、めちゃすごいじゃないですか。そんなことが本当にあったのですかね。それに自然科学にとっても夢やロマンは飯の種ですから、ムー大陸ばかりが言い放題のままではイカンでしょう。
ところで小学生の頃ハイエルダールのコンチキ号漂流記を読んでシビレました。イカダで海を渡りてぇぇって。でもイカダの上じゃ、ご飯炊けないかもーっとも思いました(お米なしに生きていけないと思っていた)。
今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
アルフレッド ウェゲナー 著 大陸と海洋の起源
ハイエルダール著 コンチキ号漂流記