地震と活断層(22):原材料表示があればいいのに

update 2005.7/18

断層の材料

実験 その3
↑クリックすると動画が見れます。今度はソリを替えます。

  なんか似たような実験ばっかりだけど、また実験を見てみましょう。今度は何が違うかというとソリを取り替えると、固着すべりから安定すべりに変化するって実験です。

「なーんだ。しょーもな。ツルツルしたソリはずるずるすべって、ベタベタしたソリが固着すべりしたってわけじゃん。」

  そうですね。オモリもバネも糸巻きも一緒で、ツルツルしたソリになったら、安定すべりになる。当然ですね。で、何が言いたいかといえば摩擦にとって表面の材料は大事ですよっ。つまり地震の規模や周期を理解するためには、断層がどんな岩石で構成されているのかを知らないわけにはいきませんよってわけです。というわけで断層岩とは何か?という話です。

  断層というのは定義では「面」でした(第2回参照)。面の材料ってピンとこないかもしれません。でも、ツルツルした面か、ザラザラした面かでは違いますし、しかも実際の断層には厚さがあってそこには物が詰まってます。真空じゃありません。理屈の上でも、断層は2つの面と面でできてるってことは、くっついてないってことは、必ず隙間があって、岩か水か空気か、、、とにかく何かが入っているはずです。じゃあいったい何が入っているのでしょう。

 

断層の化石:壊れた地震発生装置を分解する

野島断層保存館は、マジで一見の価値あり。大有りです。

  というわけで、断層の材料を観察しましょう。と、言ったところで、断層を取ってこないと観察しようがありません。では、断層はどこにあるのでしょう。

「はい、淡路島の北淡町の野島断層保存館にあります。」
「そうですね。でも、あれは地表地震断層で、震源断層が見れるわけじゃありません。震源はもっと地下深部にありますから。」
「じゃ掘りましょう」
「良い意見ですね。実にいい。でも技術的にちょっと難しくて、人類はまだそこまで掘ったことがないのです。」
「、、、、じゃあ、見れないじゃん。ってことは今日の講義はもう終わりですねっ」
「 いいえっ!! 今現在の震源領域は取ってこれませんが、過去の断層なら見ることができるんですっ。」

  それはなぜかと言えば、こんな理屈なのです。日本列島の下にプレートが沈みこんでいるのは、地動説と同じくらい常識ですね。そして沈み込む海洋プレートに載ってた堆積物が陸側にへばりつきます。これが付加体です。そーしてどんどん陸地は成長してきました。遠い未来には地球は大陸地殻だらけの惑星になるかもしれません(太陽系の寿命によりますが、、)。それはまあいいとして、付加体はどんどん隆起して陸地になって、皆さんのアパートの土台になりました。言い換えれば、皆さんの足元には昔のプレート沈み込み帯があるってことです。特に、四万十帯や秩父帯で暮らす皆さんは。

昔からプレートは沈み込んでいて、付加体の成長や海溝型巨大地震は起きていました。
しばらくは活動した震源断層の下にも、次の時代の付加体がやって来て、その寿命がつきます。そして徐々に上昇。

付加体はどんどん活動して、海底は隆起し、山となり、風雨で削られ、ついに断層の深い部分も地表に現れます。じゃーん。

「へえ、ここは昔海だったんだあ」
( っていうか、まあ原始地球には大陸地殻は存在しなかったので、そのセリフは地球上の全ての場所にあてはまるのですが、、、 それは本題とは関係ありませんが、、、)

  というわけで地殻はどんどん成長・隆起していて、陸上を探せば昔の断層がいたるところにあって、そこから地下深部の震源断層の様子を考えようってわけです。こういうアプローチは内陸型の震源断層を中心に何10年も前からあって、かなり研究されています。海溝型に関してはつい最近始まったところです(巡検に便利 四万十帯の震源断層 参照)。

  こういった過去の震源断層の化石は、今はもはや動きません。壊れた地震発生装置です。こいつを分解して仕組みを理解したいというスートーリーです。

断層岩とは

  ところで岩石はどーやって分類されているでしょうか。まず、岩石ってのは、鉱物の粒子がより集まってできてます。つまりミネラル。で、フツーは岩石の材料とかサイズで分類されます。砂の粒からできてたら砂岩。泥からできてたら泥岩。火成岩や変成岩も、石英、カリ長石、雲母、角閃石、輝石、、、から構成されているからカコウ岩みたいなーっってな具合です。ところがこの断層岩つーのは鉱物の種類も粒子のサイズも問いません。石英だろうが、方解石だろうが、ハガタイトだろうが、粒子のサイズがデカかろうが、ちいさかろうが気にしません。じゃーどうやって分類するかと言えば、はい、固結しているか、並んでいるか、溶けたか、とかで細分されます。表にするとこうなります。

特徴

配列してない 配列してる 主なメカニズム
未固結 ガウジ   粒界すべり
ブレッチャ  
固結 カタクレーサイト フォリエーテッド カタクレーサイト 破砕
固結(ガラス) シュードタキライト   摩擦溶融
固結(塑性流動)    − マイロナイト 結晶転移
ガウジとブレッチャは細粒な基質と岩片の量比で分けますし、正しくはカタクレーサイトも岩片と基質の量比で細分化されますが、ここでは簡略化しました。

このうち、
    ブレッチャ     ってのは未固結で、基質の割合が少ないもの
    ガウジ       ってのは未固結で、基質の割合が多いもの
    カタクレーサイト  ってのは岩石が破砕してできたものです。
    シュードタキライト ってのは断層の摩擦熱で岩石が融解・ガラス化したもの
    マイロナイト     ってのは結晶が塑性変形したしてできたもの

 岩石は粒子のかたまりです。粒子同士の接着が弱いと、粒子の境界ですべります。個々の粒子は壊れることなく断層は活動します。断層面では、粒子が壊れることなく浮いてます。

 粒子と粒子ががっちり接着されてる場合は、粒子が壊れます。ばきっと脆性破壊します。断層面で粒子がスパッと切れたり、破砕粒子が見れます。

 温度がやや高めだと粒子は、ぐにゃっと曲がります。大きな粒子の周囲にはテイルができますし、小さな粒子はきれいに配列します。

  ただ、実際に断層を見ると、ただ黒かったりしてよくわかりません。断層だってことはわかるけど、詳しい分類は野外ではわからない場合も多いです。

 

どうしたら良いかと言えば、ちゃーんと顕微鏡で見ます。ポイントは粒子です。岩石はいろんな鉱物粒子からできてます。サイズには関係ありません。粒子がどんな変形・破壊を受けているかをチェックします。

  

バキッって破壊してるのか、グニャってひん曲がっているのか、ドロッと溶けているのか、なーんも変形してないのか、ってことです。

 

断層の材料わかった?

  おかげで断層が分類できました。この分類法は、断層が、どうやって破壊・変形してきたのかを反映してます。ここが他の岩石分類法と決定的に違う点です。でも、分類するのが最終目的ではありませんでした。断層表面で何が起きているのか、を知るのが目的でした。

  というわけで次回からは、皆さんが観察した変形・破壊の様子と、そのメカニズムについて、見ていきましょう。

 

今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
狩野謙一、村田明広 著 「構造地質学」
ショルツ 著/柳谷 俊 訳  「地震と断層の力学」

四万十帯に便利

地震と活断層

1.でかい地震はどれだけでかい?
2.活断層はなぜ危険なのか?
3.沈み込みサイエンス
4.予知はすでに実現している?
5.ストレスがたまらねー
6.ストレスが原因ですね
7.必殺!グリフィスクラック:破壊力学1
8.クローン?いやクーロン:破壊の力学2
9.モールの美:破壊の美学3
10.スリッププレディクタブルはあり得ない
11.水圧と地震
12.破壊衝動に駆られて
13.壊したから.わかった
14.強ければそれでいいのか
15.摩擦って何よ
16.摩擦の追憶
17.そして地震の発生
18.あなたって.いざという時に...
19.震源になるために:固着すべりの力学
20.バネがすべりにスティフネス
21.質問はありませんか? あのー...
22.原材料表示があればいいのに
23.広大な断層のどこかに
24.脱臼でもしてゆっくりしたら
25.地震の巣 深部で起きていること
26.ダイヤモンドとじんせい −脆性破壊−
27.ハンガーニュークリエーション


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