地震と活断層(2):活断層はなぜ危険なのか

update 2003.3/8

「地震=断層運動」ですら最新の常識

 地震=断層の運動というのは、皆さんにはトーゼンのジョーシキなのでしょうね。いやあ進歩ってやつを感じずにはいられません。

  1995年の阪神大震災で野島断層が盛んにテレビで取り上げられて依頼、活断層が地震を起こすことはもはやジョーシキって感じです。だから今さら、「地震とはすなわち断層活動なんだよ!君たち!」などと言ってもどうせ「はいはい。知ってます。高い授業料を払っているのに、その程度ですか、、、」としか思われないことでしょう。でもまあ、そう言わずもう少し考えてみましょう。地震=断層運動だっていう程度のことが決着したのですら、つい最近のことなんですから。ところで、そもそも断層って何なのでしょうか? 定義で言えば

「地層の不連続面で、面に平行な変位があるもの」

ということになります。「不連続面」とは、ずーっとつながっていた地層が切れてるってことですし、「面に平行な変位がある」とは、パカッて開いてたり、前後の地層に食い違いがなかったり、しないってことですね(つまり、食い違ってる)。

 つまりこれだけだったら別に地震を起こすという制約はないのです。海底の未固結の泥や砂の地層が、ちょっとずるって滑って食い違いができるかもしれません。皆さんが大嫌いな実習の薄片の中にも微小な食い違いがあるかもしれません。そういったものもぜーんぶ断層ということになるのでしょうか? はい、なります。つまり断層には地震を起こす奴と起こさない奴がいるのです。ちょっと話はずれますが、ちょっと思い出してみましょう。阪神大震災や1999年の台湾中部地震の時には地表に活断層が顔を出して家やら道路をぶった切っていました。でもふつうの時でも時々地震は起きて、テレビのニュース速報で流れたりしますが、あの時にいちいち地表に活断層は顔を出しません。大地震の時だけ顔を出します。この「活断層」とさっきの「断層」は何が違うのでしょうか。その他にも「地震断層」や「震源断層」っていう言葉もあります。ここで一旦整理しときましょうかね。

定義を覚えるのはメンドー

 単にラミナを切る程度のズレでも、厳密に言えば「断層」ってことになります。定義ってちゃんと使うことで、それまで曖昧にしてた事を明確にさせてくれることもあるし、厳格に使い過ぎて本質を見失うこともあるわな。

 まあ細かい定義を議論するのは本質的ではないけど、そこをはっきりさせることで見えてくることもあるってもんです。試験にも出るしね。

変位のある不連続面で、地層が切れるもの

は、すべからく「断層」ということになります。これだけだと危険なものからそうでないものまであって、その中でも

地震の際に地表に現れる断層

が「地震断層」(もしくは地表地震断層)です。でも、地表の軟らかい部分で動いたって、あの強烈な地震波は発生させません。つまり結果的に動いたのであって、地表の断層が地震動を発生させたわけじゃーありません。ナマズで言えばしっぽですね。本体はもっと地下深部にいるのです。

地下深部の断層(地震波をちゃんと発生させるという意味も込めて)

これが「震源断層」となります。さて問題の「活断層」っていうのは、地震断層の一種で、いつのどんな地震で動いたかはわからないけど、そこそこ過去(大過去ではない)に地震と伴に動いたという前科がある奴のことです。

地震を起こさない断層

 実際に見ると迫力有りますねえ。これはあの阪神大震災の野島断層の博物館の写真です。この博物館は一見の価値おおありです。ぜひ見に行くべきです。

  単に前科のある断層っていうならいっぱいあります。例えば私がお気に入りの窪川町の断層は5000万年ほど前に活発に動いていたらしいのです。でももう地震を起こすことはありません。これも活断層でしょうか? それは違います。なぜならすでに死亡しているからですね。死因はきっと応力の配置が変化したからかもしれません。この応力っていうのは、まあ日本列島に沈み込むプレーとの押す力だと言ってもいいでしょう。そんで最終的には日本列島が歪んで、断層が滑って地震が起こるんですな。で、応力が変化するってことはプレートの押してくる方向が変化すると言うことです。今、南海トラフでは北西方向からフィリピンプレートが四国の下に斜めに沈み込んでいますが、この沈み込みの方向は江戸時代も縄文時代も、ましてや北京原人の時代も同じです。そうそう短い時間では、沈み込む方向も速度も変わりはしないのです。でももっと長い時間ならどうでしょうか。ゆっくりと変化しますから、ざっと数100万年あれば、もはや依然とは同じ状況ではなくなってしまうでしょう。そうしたら今活動的な断層も動かなくなったり、新しい断層ができたり、そして古い断層が復活して動き出すやもしれません。と、いうわけでだいたいここ200万年の間でしたら(地質学で言えば第四紀の時代)の日本列島の応力状態は、そう違いはないとみなしていいでしょう、と考えます。ある特定の応力状態におかれた場合、日本列島のある特定の断層が活動するんですから、応力状態が変化しない限り動く断層は動くし、動かない断層は断じて動かないのです。ピクリとも。つまりここ200万年間に動いた断層は今後も動くのです。たとえば歴史上動いた記録が無いからといって、その断層は動かない。ということはな無いんです。この200万年間繰り返し動いてきた奴は、ほんのこの数1000年間休んでいても将来必ずや動くであろうというものです。つまり前科のある奴は、しばらくおとなしくしていたとしても必ず罪を重ねる。状況(応力場の)が変わらない限り。

活断層はなぜ危険か?

 これは1999年の台湾中部地震を引き起こした車籠埔断層です。この段差は地震前には平らな田んぼだったんですね。そこに断層がのし上げてきたことがわかります。ここはたまたま建物がなかったのですが、周囲ではたいへんな被害がでていました。

ところで日々テレビのニュース速報で地震の発生が告げられますが、それってことはその度にどこかで断層が動いたってことですね。たとえ小さな地震でも。ではその度に地表の活断層がちょこっと動くのでしょうか? 歩道が0.1mmずれたり、ドアの立て付けが悪くなったり、ミミズの体が切断されたり、、、いやそんなことはないでしょう。小さな地震では地表の断層はピクリとも動かないのです。でも地下ではきっと小さな断層がちょこっとだけ動いたはずなのです。ただ単に地表には現れないだけで。すなわち震源領域というのはけっこう深い所にあって、そこでは地震の度に断層が少しづつでも動くのですが、そこの変位はちっとやそっとでは地表にまで届かないってわけですな。つーことは今、日本列島には数多くの活断層が確認されてるわけですが、そいつらはこれまでにちっとやそっとじゃない断層活動をやってきて、その結果として地表に断層活動の爪痕を残しているって言えるわけです。このちっとやそっとじゃない断層活動、すなわち地震は、ざっとM=4以上。それも震源が深さ10kmとより浅い場合。つまり地震の規模が小さかったり(断層の変位量が小さいってこと)、震源が深かったりすれば地表には振動しか伝わらないんですな。逆に言えば、浅くて巨大な地震の時にだけ地表に地震断層が出現するってわけ。

まとめ

活断層はなぜ危険なのか? それは、

 1.活断層は、震源が浅くかつ規模の大きな地震を起こす。
 2.それは将来においても繰り返す。

だから危険なのです。


今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
松田時彦 著  「活断層」
狩野謙一、村田明広 著 「構造地質学」

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地震と活断層

1.でかい地震はどれだけでかい?
2.活断層はなぜ危険なのか?
3.沈み込みサイエンス
4.予知はすでに実現している?
5.ストレスがたまらねー
6.ストレスが原因ですね
7.必殺!グリフィスクラック:破壊力学1
8.クローン?いやクーロン:破壊の力学2
9.モールの美:破壊の美学3
10.スリッププレディクタブルはあり得ない
11.水圧と地震
12.破壊衝動に駆られて
13.壊したから.わかった
14.強ければそれでいいのか
15.摩擦って何よ
16.摩擦の追憶
17.そして地震の発生
18.あなたって.いざという時に...
19.震源になるために:固着すべりの力学
20.バネがすべりにスティフネス
21.質問はありませんか? あのー...
22.原材料表示があればいいのに
23.広大な断層のどこかに
24.脱臼でもしてゆっくりしたら
25.地震の巣 深部で起きていること
26.ダイヤモンドとじんせい −脆性破壊−
27.ハンガーニュークリエーション


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