地震と活断層(12):破壊衝動に駆られて
update 2004.1/16
断層を我が手に
さてせっせと学んできた破壊力学は、かなり理想的な物質を対象にあれこれ考えてきました。でもやっぱ実際のところはわかりません。あの露頭で見る断層はいろいろですからね。いろんな岩石が、異なる状況で、お互いに影響し合っているのです。そこで何が起きるか?などという事を頭の中だけで予測するなどできるでしょうか、いやできまい(反語)。となるともはや実験しかないでしょう。地下で起きている現象を実験室でカンペキに再現できたらサイコーだと思いませんか? そしたらもはや地震を我が手に納めたようなもんでしょー。いやあすばらしいなあ。
これが3軸圧縮試験機です。詳しい仕組みは下に。 |
とはいえ私はやったことがないので、まあ教科書に書いてある事を紹介しましょう。で、どうしたらいいかというと、要は岩石を歪ませて壊せばいいのです。用意する岩石のサイズはざっと数100km×数10km×10数kmで、実際の断層物質と同じ物が良いでしょう。これを温度、圧力、間隙水の条件を実際の震源断層と同様にセットしてやって、あとは実際の断層と同じレートで応力をかけてやればいいでしょう。え、そんなものできない?でかすぎ? そうですね。作れませんし。動かせませんね。それに1回の実験に100年以上かかってしまいます。では、どうしたらいいのでしょうか。
八方ふさがり
もうわかってるだろうけど地下の断層には、深さによる封圧とテクトニックな力の両方がかかってて、それは水中でクランプをしめるようなもんですね。周囲からは水圧が、そしてクランプでプラスアルファの力が、、、、 |
地下深部と同じ条件で実験するには、どうするのかと言えば、封圧をかけてやればいいのです。断層が周囲から静岩圧を受けているように、サンプルの周囲から均等に油圧やガス圧で押してやります。要は高圧な雰囲気で万力の実験をすると思えばいいのでしょう。ただし高圧環境をつくるガスや油がサンプルに染み込まないように、サンプルはビニールや金属筒のジャケットに覆われてます。これでオッケー。あとは封圧が100MPaかかれば、ざっと地下5〜6kmぐらいの岩圧と同じだし、クランプの代わりに油圧ジャッキでサンプルを押せばいいんです。油圧ジャッキで押された方向がσ1で、割れてふくらんだ方向がσ3、そんで結果的にそれらと直行した方向がσ2ってわけです。こういう試験機を3軸圧縮試験機と言います。地下と同様の封圧をかけるという点がポイントですね。ヒーターもつければ地下と同じ高温状態もつくれます。こいつの欠点は断層のような数mにおよぶ大きな変位ができないってことです。そんなに変形したらジャケットが破けちゃいますからね。
ってなわけで、岩石試料に全方位からオイル(またはガス)で封圧をかけ、そんでヒーターで温度を地下深部の状態を作り上げたところで油圧ジャッキでテクトニックに差応力をかけるんですよ。これが3軸圧縮試験機です。 |
実験結果の見方
さて、実際のところ破壊実験でどんな結果が得られるのかっつーと、3軸圧縮試験では次のようになります。下図は縦軸を差応力で横軸を歪み(変位量)を示しています。ってことは縦軸はモール円で言えば円の直径であり、数値が増える程そんだけ強い差応力にも耐えてるのだから、強度とも言い換えることができます。で、横軸はさっきの図で言えば、上下のピストンがどれだけ押してきたかを意味しています。周囲からは封圧がかかっていて、それに加えてピストンがギューっと押す。それによってサンプルには弾性歪みがたまっていく(赤線の部分)。この時しばらくは比例的に変化するのは、まさにバネといっしょだし、この状態でピストンで押すのをやめると岩石は元にもどります。まだ弾性的に歪んでいただけですから。でも、もうちょっとたつと事態が変わります。弾性的な変化は限界となって(降伏点という)、内部のクラックは押しつぶされる奴や、剪断しはじめる奴など出てきてます。微小な破壊がはじまるのです。こうなってしまともはやピストンの力を抜いても、元に戻らない変形、すなわち永久歪みが発生し始めています。それでもなおグラフでは、傾きが変化したとはいえそれでもなお変位に対して強度が増しています(ピストンが押せば押すほどに高い差応力が生じている)(青線の部分)。しかしいずれはそれも限界に来て破壊します。そうすると、もはや明確な割れ目ができてサンプルは分離しているわけですから、ちょっと差応力がかかっただけでも変位する状態(ピストンでちょっと押しただけでもずるずる動く状態ということ)になります(緑線の部分)。破壊実験というのは、だいたいこんなグラフで表現されるものです。今後見る機会も多いでしょうから、グラフの見方くらいは覚えておいても損はないでしょう。
プラスチック定規で言えば、赤い部分はぐーっと曲げても手を離せば戻るレベル。で、青い部分は白くなってもはや手を離しても戻らなくなる状態。それをも越えて曲げるとバキッって折れることでしょう。 |
リング剪断
これは京都大学防災研究所のリング剪断試験機の写真です。これはシュードタキライトを作るようにはできてません。ですって。 |
さて3軸圧縮試験機は地下深部でのすべりを再現する能力があったんだけど、欠点としては天然の断層のような大きな変位(数m)を実験することができないってことでした。で、もういっこ別種の実験機を。この大きな変位ができる実験機としてはリング剪断試験機っつうのがあります。これは右図のようにリングをぎゅーっと押しつけて摩擦させるもので、リングを何回転でもさせれば変位量はいくらでも稼げるってしろものです。こいつなら何mでもオッケーっです。さっきの3軸圧縮試験機が数mmの変位しか稼げなかったのに比べたらたいしたもんですな。こいつだとガンガンに回転させて摩擦熱で岩石を溶かすことだってできるそうです。断層でも摩擦溶融でできるシュードタキライトという岩石がありますが、これを再現できるってわけですね。ただしこいつも万能じゃありません。封圧をあまりかけられないんですわ。サンプルをセットするリング部を圧力容器に入れたらいいんだけど、強力に回転させる軸受けをシールするのが至難の業なんですって。そこから圧が漏れてしまうので、高い封圧は実現されないんだそうです。しかしまあ技術的な問題って、なんとももどかしく感じますねえ。でも不可能と言われると断固突破したがる人がいるものですから、近いうちに解決されてほしいなあ。
今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
狩野謙一、村田明広 著 「構造地質学」
ショルツ 著/柳谷 俊 訳 「地震と断層の力学」