地震と活断層(1):でかい地震はどれだけでかい?

2003.3/3初出
2004.10/27修正

マグニチュードとは何か?

 P波とS波は高校理科で出てくるから、知っているでしょ? 最初の微動がP波ですね。これは慣れると体感的にわかります。誰かが駆け足で階段を駆け上がったようなビリビリとした振動が最初に来て(P波)、その後ゆさゆさと左右に揺れてきます(S波)。

マグニチュードも震度もテレビではよく耳にするけど、どう違うか知ってますか? 例えば「今日午後14時50分頃四国南西部を中心に地震がありました。高知市の震度は3で、、、地震の規模はマグニチュード4.7でした。」なーんて聞くでしょう(といっても西日本ではもともと地震が少ないので、そんなニュースすらめったにお目にかかれないけど)。

  で、注意して聞くとわかったでしょうが、マグニチュードというのは地震の規模を表すんですね。そんで震度っていうのは、その地点がどれだけ揺れたかってことです。例えるならば、たき火みたいなもんです。フツーの落ち葉を燃やすたき火では、近くの人は暖かいけど、離れると寒い。一方、キャンプファイヤーぐらいに、がんがんに燃やしても離れるとやはり暖かくない。で、この自分が感じる暖かさで火の大小、「このたき火は大きい」とか「このたき火は小さい」などと言えるかというと、言えませんね。たとえ火は小さくともタバコでヤキを入れられたら、めちゃ熱いわけですよ。距離が大事なんですな。じゃあどうしたらいいかと言えば簡単で、同じ距離で比べたら万事解決ってわけです。

 

マグニチュードの秘密

 ところで地震計はこんな風に回転する記録紙とおもりからできてているんだって。大地が揺れると記録紙も一緒動くんだけど、おもりは慣性のため揺れない。そしておもりについているペンも動かない。そのため振動の記録が記録紙に残るんですって。今時のはこんなに原始的ではないでしょうがね、、、

  地震の場合も同じで、震源から100kmの位置で測ったxx地震計の振れ幅で比較します。ところで地震計ってのは、皆さんテレビでおなじみでしょうが、あの記録紙に針がびよびよと波形を描くあれです。その針の振れ幅からマグニチュードを計算するんですが、式は

M=logA+logB  です。

このうちlogBは、地震計の位置が震央から100kmじゃなかった場合に適当な補正するための数値です。つまり100kmより近ければマイナス。遠ければプラスに与えます。次にlogAは地震計の針の振れ幅をμm(1μm=0.001mm)で表したものです。で、logだからこの乗数がポイントってわけです。つまり計算式で書くとカッチョイーけど、要はふれ幅をものさしで計って、 1mmだったら 10の3乗μmなのでlogAが3。
すなわちこの地震計が震央から100kmの位置にあったらlogBはゼロなので M=0+3=3 なんですね。
  1mm だったら M=3.0
 10mm だったら M=4.0 
 10cm だったら M=5.0

なんですね。それってセンチやミリといったオーダーのレベルで決っちゃうってこと??。 なにいいいいいいい、そんなに簡単なのかあ?! 許せええええん。という皆さんの叫びはよくわかります。きっとこれはマグニチュードが提唱され始めた頃の初歩的な方法に違いありません。21世紀の現代ならきっともっと精度の良いスーパーものさしを使っていることでしょう。でも教科書にはこのように書かれているので、原理はだいたいそんなもんなのかもしれません。私もよくは知りません。

 
 1999年9月21日、台湾中部で大地震がありました。西麓山帯の車籠埔(チェルンプー)断層が長さ85kmに渡って最大変位10m以上(垂直)動いたのです。震央の集集付近を中心に2375人もの方が理不尽にも亡くなられました。

 台湾西部に発達する低角の逆断層の車籠埔断層がグラウンドを横切り、川を断ち切り滝を作り橋を落としダムを破壊したのです。

 それにしてもマグニチュードが針の振れ幅がミリオーダーか、センチオーダーかで、M=4 だったりM=5 だったりするという事実はショッキングでしたね。でも、テレビではもっと大きな地震も耳にします。あの阪神大震災はM=7.2でした。1999年の台湾中部の集集地震はM=7.7でした。ん?M=5だったらふれ幅10cmオーダーだってことは。M=7だったら10mオーダーってこと? でもってもしM=8だったら100mオーダーッッッ!!! どんだけでかい記録紙やねん! と、つっこみたくなりますね。

 しかし本当にめっちゃでっかい地震計が設置されているわけではありません。では、どうするのか? まず第1に、たき火と同じように、遠くなると地震波も弱くなるので、遠い地震計から逆算すればいいのです。なるほど。で第2に、本当にM=8の地震でも、100km離れた地点が10mのオーダーで揺れるわけではないのです。実は地震が小さいうちは、震源部の地震エネルギーの大きさに応じて、100mk付近の揺れの大きさも大きくなるのですが、これが大きな地震になると、徐々に揺れの差が出にくくなってくるのです。地震エネルギーの一部が地殻に吸収されてしまうらしいのです。ふーん なるほど。そうなんだあ。

 でも、するってーと困った問題が生じてきます。なぜなら地震の規模(エネルギー)を表現したくてマグニチュードを導入したのに、それが正しく表せないからです。スーパー超巨大地震が起きても、ただの超巨大地震のようにしか表現できないのです。ああなんたること!俺の存在意義って、、、 マグニチュード危機一髪! でも大丈夫。そこで登場したのがモーメントマグニチュードなのです(なんだかアニメの続編のようだ)。

 

必殺のモーメント!

  と・こ・ろ・で 皆さんにとって地震=活断層の活動 であることはジョーシキ。あったりめーのコンコンチキなことと思います(そんな言い回し使わないって?)。しかしこれがわかったのはけっこう最近のことなのです。その辺のエピソードはファイルをあらためて紹介させてもらうとして、今日のところは地震の規模を活断層の運動から考えてみましょう。
断層というのは「面に平行な剪断を持つ地層の不連続面」なのですが、要はバキッと割れて滑った面なのです。で、これはけっこう長い距離を持つのですが、無限に続くわけではありません。だって、ぐるっと地球表面を1周して、それが動いたらルービックキューブのようになっちゃうでしょ?!(と、言っても実はルービックキューブを知らないでしょ。どーせ。ま、知らない人は適当に想像して下さい)。

  つまり断層にも始まりと終わりがあるのです。面ですから長さと幅(深さ方向)があって、これが数10cmとか数mとか変位して地震が発生するのです。だから、この活動した面積と変位量こそが地震の規模を忠実に反映してくれることでしょう。ね。では、具体的に比べてみましょう。

  まず1995年1月の阪神大震災(M=7.2)ですが、これは延長40km、幅10kmの断層が最大2.1m動きました。X軸を断層の長さ、Y軸を幅、Z軸を変位量として地震エネルギーを直方体にして表現してみましょう。かの関東大地震(1923年9月 M=7.9)は、断層の長さは130km、幅は70kmそして変位量は2.1mです。マグニチュード7クラスと言ってしまえばそうだけど、全然大きさが違いますな。うーん。次に四国に住む皆さんに馴染み深い1944年12月の南海地震(M=7.9)の断層を見てみると、長さ120km、幅80km、変位量3.1mという大きさですから、なんとどでかい!ことか。阪神大震災でも、あの被害ですから、南海大地震は恐ろしいですな。

 地震エネルギーを比べてみましょう。なんじゃいこのチリ地震のでかさは! それはさておき南海地震がM8.0で、チリ地震がM8.5じゃおかしいだろー

  ところでついでに近代の地震観測史上最大の地震も見てみましょう。じゃじゃじゃーん。その名は、チリ地震です。ぱちぱちぱち。なにせ、この惑星最大規模とすら思える地震で、M=8.5です。断層の長さ800km、幅200km、変位量24mという桁違いのパワーと迫力。皆さんもノートに描いてみて、チリ地震のすごさに震撼し、畏怖して下さい。ちなみにここ数10年間の観測期間中に地球が放出した地震エネルギー全体の実に1/4をこの地震一人がまかなっています。

  いやあ、くわばらくわばら。 っっっと、このまま終わる所でした。

  断層の長さ 変位量 M Mw
阪神大震災(1995)  40km  10km  2.1m 7.2 6.9
チリ地震(1960)  800km  200km  24.1m 8.5 9.5
南海地震(1946)  120km 80km  3.1m 8.0  
関東地震(1923) 95km 54km 4.8m 7.9  
引用文献:佐藤良輔鮑編 日本の地震断層パラメータ、力武常次著 地震の正しい知識、島崎邦彦 松田時彦編 地震と断層

  ええっと。このようにマグニチュードは巨大地震になると飽和現象を起こすのだそうです。たしかに南海地震とチリ地震とがM8.0とM8.5じゃまずいでしょう。揺れだけでマグニチュードを決めると巨大地震に対応できなくなるってわけで、こいつを地震エネルギーを基に補正します。それをモーメントマグニチュードと呼びます。上の表で言えば右端のMwって奴です。これならチリ地震も9.5になるので、「こいつは別格」ということがはっきりしますね。詳しい補正の仕方は知りませんが、特別大きな地震でなければマグニチュードもモーメントマグニチュードも、それほど気にする必要もないでしょー。きっと。でも、震度とマグニチュードの違いは気にして下さい。はい、今度こそおしまい。じゃっ。


今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
国立天文台 編  理科年表 平成20年
ショルツ 著/柳谷 俊 訳  地震と断層の力学
島崎邦彦・松田時彦 編 地震と断層
力武常次 著 地震の正しい知識
佐藤良輔 編 「日本の地震断層パラメータ」
断層のパラメータに関しては 下記のサイトも参考になります
断層を見る プレートを見る会

四万十帯に便利

地震と活断層

1.でかい地震はどれだけでかい?
2.活断層はなぜ危険なのか?
3.沈み込みサイエンス
4.予知はすでに実現している?
5.ストレスがたまらねー
6.ストレスが原因ですね
7.必殺!グリフィスクラック:破壊力学1
8.クローン?いやクーロン:破壊の力学2
9.モールの美:破壊の美学3
10.スリッププレディクタブルはあり得ない
11.水圧と地震
12.破壊衝動に駆られて
13.壊したから.わかった
14.強ければそれでいいのか
15.摩擦って何よ
16.摩擦の追憶
17.そして地震の発生
18.あなたって.いざという時に...
19.震源になるために:固着すべりの力学
20.バネがすべりにスティフネス
21.質問はありませんか? あのー...
22.原材料表示があればいいのに
23.広大な断層のどこかに
24.脱臼でもしてゆっくりしたら
25.地震の巣 深部で起きていること
26.ダイヤモンドとじんせい −脆性破壊−
27.ハンガーニュークリエーション


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